列車で越える世界の緊迫国境/著者:小牟田哲彦

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※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。

書籍情報

タイトル

列車で越える世界の緊迫国境

発刊 2023年12月20日

ISBN 978-4-594-09543-7

総ページ数 293p

著者

小牟田哲彦

日本及び東アジアの近現代交通史や鉄道に関する研究・文芸活動を専門とします。

出版

育鵬社

もくじ

  • まえがき
  • 第1章 米朝首脳会談で注目_乗換えを要する中越国際列車
    • 北京(中国)→ハノイ(ベトナム)
  • 第2章 日本人旅行者を惹きつけたシルクロード特急
    • ウルムチ(中国)→マルマトゥ(カザフスタン)
  • 第3章 日本の国際列車の歴史を受け継ぐ中朝直通列車 20年間の変遷
    • 丹東(中国)→平壌(北朝鮮)
  • 第4章 中央アジアの回廊列車と国境駅での拘束劇
    • サマルカンド(ウズベキスタン)→ホジャンド(タジキスタン)→コーカンド(ウズベキスタン)
  • 第5章 アジア最上の豪華急行でマレー半島を縦断
    • シンガポール→クアラルンプール(マレーシア)→バンコク(タイ)
  • 第6章 東ベンガル鉄道栄枯盛衰_名茶ダージリンはここから世界へ運ばれた
    • ニュー・ジャルパイグリ(インド)→ラジシャヒ(バングラデシュ)→コルカタ(インド)
  • 第7章 印パの〝和解〟を演出する時速4キロの国際急行
    • アムリトサル(インド)→ラホール(パキスタン)
  • 第8章 「世界一短い国際列車」と称された南米の孤立路線
    • タクナ(ペルー)→アリカ(チリ)
  • 第9章 中国によるアフリカ支援の先駆的国際路線・タンザン鉄道
    • ダルエスサラーム(ランザニア)→ニュー・カピリ・ムポシ(ザンビア)
  • 第10章 共産圏の面影を残す東欧とバルト三国の直結ルート
    • ヴィリニュス(リトアニア)→ワルシャワ(ポーランド)
  • 第11章 ユーロスターは西欧唯一の時差&審査付き越境特急
    • ロンドン(イギリス)→パリ(フランス)
  • 第12章 「世界一高い鉄道橋」と国の分離で生まれた新国境を体験する
    • バール(モンテネグロ)→ベオグラード(セルビア)
  • 第13章 バルカン半島から往年のオリエント急行ルートを辿る
    • ベオグラード(セルビア)→イスタンブール(トルコ)
  • 第14章 中東3カ国を貫く壮大な「アジア横断急行」
    • ダマスカス(シリア)→テヘラン(イラン)
  • 初出一覧

まえがき

 日本にも「国際列車」が走っていた時代がありました。

 連絡船を挟んで東京からパリやロンドンへの直通乗車券が発行されています。日本初の特別急行には、外国人の乗客が多く利用することを想定して、英語が話せる列車長が乗務していました。当時では珍しかった洋食堂車やサロンルーム付きの展望車まで連結されています。

 海に囲まれた日本にいると、国境線を意識することはないでしょう。緊迫する国境地帯をが一句人がふらふら歩いていれば官憲に尋問されます。けれど、切符を持っていれば、座席に座って国境線を眺めながら国境体験をできるのです。その体験を紀行文としてまとめたのが本書になっています。

カザフスタン入国

 旅行会社に頼らない個人旅行者がカザフスタンへの列車に膿漏としても、21世紀初頭まではカザフスタンの入国ビザを事前に取得するのが困難でした。カザフスタン本国になる受入機関から招待状がなければ、観光ビザさえ発給できません。日本人旅行者がその書類を入手するのは不可能なので、観光目的でも入国できないのと同じでした。

 東京に大使館はできたものの、観光ビザの取得にまで現地からの招待状を要求する旧ソ連の仕組みは20世紀中には消滅していません。2004年から日本人観光客が招待なしで観光ビザを取得できるようになり、2014年からは、観光ビザの取得自体を免除する措置が日本国民相手に適用されるようになりました。

 ようやく日本人観光客は中国・カザフスタン両国をビザなしで訪問できるようになり、ウルムチ初の国際列車もパスポートと乗車券さえあれば乗れるようになりました。シルクロードに憧れる日本人旅行者にとって、シルクロード特急はようやく、少々の時間と費用さえあれば複雑な手続きなしで自由に乗れる程度にまで近い存在になったのです。

マレー半島横断

 日本人がよく知る海外のクルーズトレインの筆頭格と言えば、ヨーロッパのオリエント急行です。ロンドン~パリ~ヴェネツィア間を走る超豪華列車VSOEが憧れの的になっています。

 そのオリエント急行の運航会社がVSOEと同等のサービス提供を売りにして、マレー半島を横断する列車を運行しています。「イースタン&オリエンタル・エクスプレス」通称「E&O」です。シンガポール・マレーシア・タイの3カ国横断を基本コースとしています。

 最も安い個室でも2人1組で50万円、最上級の100万以上のコースでも満席で予約が取れないといいます。

 入国手続きで厄介だったのは、シンガポールでの出国審査を受けてからウッドランズ・チェックポイント駅まで、シンガポールとマレーシアの両国に同時に入国している二重入国状態に置かれることです。事情を知らない観光客が密入国者を疑われたこともあります。

 2011年7月に、この大問題がシンガポール駅の廃止とともに、マレーシアの入国スタンプのみを押す処置に変わり解決しました。

 このE&Oに使われる豪華客車は日本製です。ニュージーランド国鉄が日立製作所と日本車輌製造にはっちゅした「シルバースター号」という寝台列車用の専用客車だったものです。廃止された後、E&Oの運行開始にあたり同国から輸出され、大幅改造されて活用されています。

ユーロスター

 1994年にはイギリスとフランスを隔てるドーバー海峡の真下に英仏海峡トンネルが開通し、ロンドン~パリ間を直通する高速列車が運行されるようになりました。「ユーロスター」と名づけられた直通特急は、イギリスとフランスとの間に、実質的な陸上国境を新たに作り出したのです。

 フランスやベルギーはグリニッジ標準時を採用するイギリスとの間に1時間の時差があります。シェンゲン協定の適用国の多くがヨーロッパ時間を標準時としており、時差も1時間ほどしかないのです。国境審査もなく、通貨もユーロのままなので、離されている言語が変わる以外は国境を越えた実感が感じられません。

 これらのさまざまな越境セレモニーをまとめて体験できる西欧の国際列車は、現在、ユーロスター以外に見当たりません。英仏間の便利な交通手段としてすっかり定着した、西欧に残る唯一の正統派国際列車でもあります。

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