※ 毎朝、5分以内で読める書籍の紹介記事を公開します。
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
目次
書籍情報
移民の歴史
発刊 2023年12月10日
ISBN 978-4-480-51219-2
総ページ数 318p
クリスティアーネ・ハルツィヒ
米アリゾナ州立大学歴史部准教授。専門、移民史、女性史。
ディルク・ヘルダー
独ブレーメン大学、米アリゾナ州立大学教授を歴任。世界移民史の先駆的研究者として知られる。
ダナ・ガバッチア
トロント大学名誉教授。専門は移民・ジェンダー研究。
筑摩書房
- 序文
- 第1章 はじめに 一般的な見方_学者的視点からの再概念化
- 第2章 人間の歴史における移動_長期的視角から
- ディープ・タイム_アフリカ東部から世界へのホモ・サピエンスの医道
- 「農業革命」期(1万5000~5000年前)の人口の変化と移動
- 都市、文明、上海移動(紀元前5000年頃~紀元500年)
- 移動と社会(紀元前500年から紀元1500年)
- 二つの世界から一つの世界へ_移動・貿易圏・接触する文化(1400~1600年)
- 自治領・植民地化された社会・植民地化する社会で移動する人々(1600~1800年)
- 19世紀の地球規模での移動システム
- 20世紀前半の難民発生・民族の分離・強制労働のための移動
- 1950年代以降の脱植民地化と越境移動の新しいグローバルなパタン
- 第3章 越境移動と文化的相互作用の理論
- 1880年代~1950年代の理論と実践
- 新古典派経済学とプッシュ・プルモデル
- 1930~50年代 文化の融合という発想の新しさ
- 今日の越境移動の類型化に向けて
- 越境移動のタイプごとの研究のたこつぼ化
- 1970年代以降の新しいアプローチ_世界システム論・家庭経済・労働市場
- 近年のアプローチ_主体、ネットワーク、人的・社会関係資本
- トランスナショナルな分析とトランスカルチュラルな社会研究
- 第4章 移住者が辿る道への体系的なアプローチ
- 構造と主体_移動の決断を文脈から考える
- 送出社会
- 旅路_延長・圧縮・遅延
- 受入社会_経済的に入り込むこと・文化変容・政治・新しい貴族
- グローバルな相互依存と異文化が融合する日常
- 第5章 研究への挑戦としての移民の実践
- 人種と移動
- ジェンダーと移動
- 国を越え、地域を越える家族
- 国家再考
- 第6章 21世紀のはじまりにみえてくるもの
- 現代におけるジェンダー化・人種化された労働と難民の移動
- 包摂という戦略_国籍と帰属
- 21世紀のはじまり_越境移動する人々は自分たちをどうみているのか
- 原注
- 目次詳細
- 地図一覧
- 訳者解題
- 索引
難民、民族分離、強制労働
第一次世界大戦後、世界を股にかけて移動するのは、労働者だけではなくなっていました。
中国北部では、農村や都市部から満州への大量移住が起こり、植民地化された人々の間で自治への要求が支持を集めていたのです。
インドからイギリスへ、西アフリカやカリブ海諸国からフランスへ留学生が移動したことで、異文化間で新しい動きが生まれました。宗教や文化を学ぼうとしてきたはずですが、差別と人種主義を体験するはめになったのです。
黒人と白人の文化が同等であるとして「ネグリチュード」を、1930年代に呼びかけましたが、植民地出身の人が、フランス南部で仕事にありつけたのは少数です。
1900年以降、日本の支配層が武力による拡張を始めました。朝鮮半島、満州・中国、最終的には東アジアと東南アジアの多くの地域へ侵出しました。
1億人の中国人が日本軍を逃れて難民となり、結局のところ征服者のための労働に駆り出されています。ナチスのイデオロギーによりユダヤ人は国外追放を受けました。
近代の社会資本
近代の主体領域は、個人的な資源と社会関係資本に左右されます。人的資本には、知識や感情、戦略能力が含まれます。
知識も能力もある移住者は、行政上の境界線を越えて、国内で移動したり、国境を越えて国際的に移動します。移動に関するデータは、こうした国境線上で収集されるのです。
しかし、政治的な境界線は、移住者が社会的・地理的にたどる道筋にとり、あまり意味がありません。精神的なものが関係するからです。
中国人の生活様式はオーストラリア・フランス・スウェーデン・カナダ・南アフリカで違っています。こうした違いを、どのようにみて、柔軟に理解したり、生活に融合させる試みを移住者のコミニティ・家族・個人で行われているようです。
21世紀_越境移動する人々
越境する人々は、選択肢が多そうな社会で自分自身の人生を切り拓こうとします。
故郷の体制を変える活動を行うための避難所や、長期的に働いて賃金を得られる環境を求めていたり、起業のチャンスを狙うこともあるのです。
心情としては、出身者会と受入社会の両方で生きており、複数の文化のなかで生きています。カルチャーショックという表現では、誇張しすぎているようです。
移動する人に対応能力がないというより、人種主義と排斥があるから、労働階級と人種の住み分けが無くなりません。
ある一家はマレーシアのペナンで事業を展開したが、ニュージーランドのオークランドへ移住しました。マレーシアのクアラルンプールでは、資産を削って、子どもたちの大学教育に投資しました。これらの人的資源は、他の経済圏や社会空間への道を開いていきます。彼らは、ニュージーランド国籍を取得したが、マレーシア国籍も引き続き持っているのです。どちらかを手放す理由はあるのでしょうか。