この本には、これから二酸化炭素(CO2)を削減していくための具体的な目標が示されています。カーボンリサイクルとしてどんなことに取り組んでいるのか、具体的な数字と一緒に技術内容を紹介する本です。
ここでは、紹介されている内容のとっかかりの部分を解説していきます。
目次
書籍情報
タイトル
図解でわかるカーボンリサイクル
編著
一般財団法人 エネルギー総合工学研究所
出版
技術評論社
はじめに
2050年にCO2排出量をゼロにするためには、「低炭素燃料の使用」、「エネルギーの効率化」、「省エネルギーの協力」、「再生可能エネルギーの発達」、だけでは困難です。
2019年2月、経済産業省内にカーボンリサイクル室が発足し、技術ロードマップが示されました。技術に必要なシステムと要素技術を解説していきます。
カーボンリサイクルには、国際協力がかかせないことがわかっていただけるでしょう。
環境問題と現状
CO2濃度とその問題
CO2が増える主な原因は2つと考えられています。
- 化石燃料の利用
- 森林伐採
CO2が増えていく現代において、世界各地であらゆる異常気象が起きています。
- ヨーロッパでは43℃の熱波
- スペイン・オーストラリアでは山火事
- 各所で洪水、大雨
- アメリカでのハリケーン
- 日本においての突風、台風
- 地球規模の温暖化 など
自然環境の中の炭素循環は、陸地での生態系生産と海洋吸収を半分以上が取り込まれますが、残りの44%ほどは大気中に残ってしまいます。
CO2は安定している物質で、自然に分解することが少ないのです。CO2は毎年蓄積されていき、1750年277pmmだったものが2020年1月には412.3ppmとなっております。
温室効果が高い順にガスを並べると、水蒸気>CO2>オゾン・メタン(CH4)>その他ガス、となっており、直接的な影響を及ぼすものはCO2となっています。
世界のCO2排出量
CO2は主に、石炭・石油・天然ガスセメントの使用・作成プロセスにより排出します。このエネルギーを消費が増加することにより、CO2排出量は増えているのです。
世界のCO2排出量の割合BEST5には日本がランクインしています。
- 中国(全体の消費量の28%)
- アメリカ(全体の消費量の15%)
- インド(全体の消費量の7.3%)
- ロシア(全体の消費量の4.7%)
- 日本(全体の消費量の3.2%)
多くの国では、CO2排出が増えています。(2018年調べ)
サイト管理人
中国とアメリカに、頑張って減らしてもらわなければ、どうしようもありません。
日本のCO2排出量は2013年から減少が続いてます。努力を継続中です。発電部門を主とするエネルギー転換部門から排出が最も多く、全体のCO2排出量の43%を占めています。発電をする段階でのCO2排出を削減する必要性がありということです。
将来予測される気温上昇
産業革命以降から現時点で気温上昇は約1.1℃となっています。
2100年までの気象変化予測の研究が、政府間パネル(IPCC)報告書にまとめれています。主に温室効果ガスの濃度シナリオとして、代表的なものを4つ考えられています。(下のリンクの8ページ2-4 RCPシナリオ)
RCP8.5、RCP6.0、RCP4.5、RCP2.6のシナリオモデルを公表しており、2100年以降も気温が上昇していくモデル~2100年以降は気温が下がっていくモデルが予想されているようです。
2030年に向けた日本の計画
経済産業書が2015年7月1日に「長期エネルギー需給見通し」を公表しています。基本計画「3E+S」に沿っての考案です。
- Energy Security エネルギーの安定供給
- Economic Efficiency 経済効率性の向上
- Envitonment 環境への適合
- Safety 安全性
日本の第一エネルギーは分散しています。
- 石油 30%
- 石炭 25%
- 天然ガス 18%
- 原子力、再生可能エネルギー….
2030年までにこの第一エネルギーの需要を10%カットを目指しているのです。
2030年までの削減目標は26%です。残りの16%は発電部門で削減するしかありません。石油・石炭による発電を大幅に減らしたいと考えています。
また、太陽光、バイオマスでは第一エネルギーの代わりになるには厳しいとの意見が主流となっています。26%の削減には、原子力発電の再稼働を視野に入れているのです。
日本における省エネ事情
日本は1970年~1990年の20年間に、すでにエネルギーの35%を削減を省エネルギーで実現しています。同様の省エネルギーによる削減をしていくのは、ハードルが高いのです。
日本は各国に比べると、産業排熱量が低く無駄なくエネルギーを消費していることがわかっています。今後は優れた熱回収技術を、輸出していくことが求められていくでしょう。
日本が今後、重要になってくる技術はエネルギーを転換技術と電力受給の調整力といえます。
- エネルギー転換
- 熱を取り扱わない高効率電力変換
- 熱エネルギーの循環利用
- 高効率電力加熱
- 電力需給の調整力
現在のCO2の用途
日本で市場に出回っているものといえば、液化炭酸ガスとドライアイスです。
CO2はこんなことに使われています。
- 溶接用 5割ほど
- 飲料用 2割ほど
- 冷却用 1割ほど
- 製鋼用 0.5割ほど
- 科学用 1割ほど
- その他 殺虫剤や植物促進剤 など
金属同士をつなぎ合わせる「ガスシールドアーク溶接」は、自転車や造船などに使用されています。製鋼用では、高温の鉄が参加しないように使われ、化学用では、プラスチックの原料やアルカリ性の物質に対する中和剤として活躍中です。
取引価格は1トンあたり5万円程度となっています。
CO2の生産には大量の水を使う
CO2はメタン(CH4)と水で製造できます。アンモニアの製造過程でも製造されます。製造されるときは大量の水素が発生するのです。
- ${CH}_{4}+3{H}_{2}O → 7{H}_{2} + {CO}_{2}+ CO$
- $CO+{H}_{2}O → {H}_{2}+{CO}_{2}$
- $8{N}_{2}+2{O}_{2}+4{CH}_{4}+4{H}_{2}O → 8{N}_{2}+12{H}_{2}+4{CO}_{2}$
新しい試みとして、石炭を燃焼した排ガスからCO2を回収する(PSA)方法が実施されています。実際に発電所の排ガスから回収したCO2を、住友化学株式会社が使用しているのです。
世界の地球温暖化への対応
2015年パリで開催されたCOP21では約束事が決められた。
- 長期目標 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑える努力をすること
- プレッジ&ビュー 全ての国が5年ごとに気候変動枠組条約を更新すること
- 長期低排出発展戦略 低排出の計画を作成し、通知する努力をすること
日本は、2013年度と比べて2030年までに温室効果ガスを26%削減することを目標としています。目標達成のためにCO2の利用がキーです。
- 燃焼排ガスなどから回収したCO2などを有効に利用すること(CCU)
- 水素の導入の積み増し
- CO2フリー燃料の導入
各国の削減目標も高水準です。
- EU 2030年までに国内で40%削減
- ノルウェー 2030年までに50%以上削減
- アメリカ 2025年までに26~28%削減
- 中国 2030年までにGDPあたりのCO2排出量を60~65%削減
- ブラジル 2025年までに37%を削減し、2030年に43%を削減
- インド 2020年までにGDPあたり20~25%、2030年にGDPあたり33~35%削減
CO2のポテンシャル
CO2には4つの使い道があります。
- メタノールなどの燃料化
- 地熱などの増産
- コンクリート養生などの鉱物化
- 化学品に変換
石炭由来の水素を利用すると、逆にCO2を排出するプロセスとなってしまうなどの欠点もあります。
CO2を利用しよう
CO2の排出量を減らすために
CO2を減らすために以下の技術を発展させていく必要がある
- 再生可能エネルギーや未利用熱の使用拡大
- 低炭素燃料へ転換
- エネルギー使用の効率化
- 省エネルギー
- CCS CO2を回収し、貯めておく技術
- CCU CO2を回収し、使う技術
CO2は他の物質より持っているエネルギーが低く、利用しにくいです。また、安定した化合物なので、他の物質と反応しにくく回収しづらい性質を持ちます。石灰石のようなエネルギーをもたない物質になりやすいのも特徴です。
CO2の回収方法
- 化学吸収法 吸収液と接触させてCO2を吸収する
- 物質吸収法 新しい方法のセレクソール法が普及している
- 吸着分離法 ゼオライトなどの個体吸着剤を用いてPSA法・TSA法で吸着と脱着を繰り返す
- 膜分離法 再生に要するエネルギーが不要、信頼性とコストが課題
- 探冷分離法 空気から酸素を製造し、天然ガスのヘリウム分離する 商用化には至っていない
CO2の回収実績はノルウェー、アルジェリア、オーストラリア、カナダ、アメリカ、カナダ、ブラジルが結果を出しています。課題は貯めたCO2を利用することと、低コストを実現することです。
CO2の輸送
CO2は圧力を上げると液体になり、
温度を下げても液体になり、
-56.6℃になるとドライアイス(個体)になります。
トラックでの輸送は、液化した液化炭酸学専用のトラックで運ぶのが一般的です。1台あたり8~10.5トンほど乗せるのことができます。1日に数百トンの輸送量です。
パイプラインでの輸送は、近い場合や輸送場所の変更がない場合に使われます。1日に数千~数万トンの輸送量です。
カーボンリサイクルと技術
カーボンリサイクルのイメージ
温室効果ガスの削減目標に向けて、省エネルギーだけではハードルが高いとのことでした。そこで、必要になってくるであろう仕組みは、再生可能エネルギーを輸入する仕組みです。
大気からCO2を回収→CO2を輸送→外国で再生利用エネルギーを利用しメタノールを合成
→日本は合成したメタノールを輸入→メタノールを燃焼として利用→大気からCO2を回収→繰り返す
海外のクリーンエネルギーの輸送が、現実的ではないといわれています。
CO2の固定化
分離・回収されたCO2は炭素源として利用すること(CCU)が望ましいのです。しかし、回収したものをスグに使える状況が今は限られています。そのため、CO2を大気中に拡散させないためにも、隔離・貯蓄のさまざま方法を開発中です。
こんな貯留方法があります。
- 地中の帯水層への封入
- 地中の油田・ガス田などへ封入
- 河川や海洋への溶解
- 深海底で水との結合体(ガスハイドレート)として沈着させる
日本のCCSプロジェクトは2003年から始まりました。RITEがCO2の地下貯留実験を枯渇したガス田で行なわれました。2008年には民間会社が集結し「日本CCS調査株式会社」が設立されました。その民間会社は2012年に国の委託を受けて、回収から地中貯留までのCCS技術の実証を始めています。
CO2を燃料として利用する
石油、石炭、天然ガスだけで世界の一次エネルギーの87%を供給しています。この一次エネルギーの供給量を減らすには、CO2をエネルギーとして活用しないといけません。
日本のような再生可能エネルギーの導入ポテンシャルが、低い国は何らかの形で輸入に頼るしかありません。カーボンニュートラルを実現には、他国の協力が必要です。
風力発電や太陽光発電の設置を前提として、日本の場合は蓄電設備の設置や安定した電力の供給できません。北海道に設備したとしても、都内に送電する手段もないのです。国産エネルギー化に成功すれば約30%の削減となります。現時点で、再生可能エネルギーの国産化は日本の電力量の全てを賄いきれません。
電力の輸入先はオーストラリアが有力候補にあがっています。再生可能エネルギーのポテンシャルを大きくもっており、これからも発電コストが下がっていくでしょう。
サイト管理人
日本は、石油、石炭を1日に2回ほど危険な海域になりつつあるルートを通って輸入しています。マラッカ海峡で輸送船が襲われた事件もありました。
オーストラリアの行き来だけで、済むのであれば今よりも安全にエネルギーを輸入できるということにもなります。
CO2から化学品を製造する
電化製品、レジ袋、プリンター、食品トレー、ソファー、洋服、さまざまなものにプラスチックは使われています。そういった、ポリエチレンやポリスチレンをCO2から作ろうというプロジェクトが進行中です。アンモニア、尿素、メタノールといった化学品もCO2から作れます。
太陽光を利用して、水を分解し、最終的に化学物資のオレフィン類を製造する「人工光合成」という技術があります。合成したオレフィン類はプラチックの材料になります。
再生可能エネルギーの電力を利用し、水素からメタンを合成する技術「メタネーション」という技術も重要なプロジェクトとなっています。
必要な水素の製造
産業分野で水素の製造は重要なプロセスです。今は化石燃料を使った生産が一般的です。温室効果ガスの削減をするには、再生可能エネルギーから水素を作らなければなりません。
再生可能エネルギーから水素を作るには、水電解の仕組みを利用して科学的に水分解させる必要があります。バイオマス、熱、光触媒、高分子、色々な方法を開発中です。
水素の製造場所も、日本国内で生産するのか、オーストラリアで生産するのか、検討しているところです。
カーボンリサイクルへの道
カーボンリサイクルの技術プラン
- CO2の回収
- CO2の燃料化
- CO2を利用した化学品などの転換
この3つことを、世界全体で2030年、2050年までに低コスト化を目指して動き出しています。
今後の課題
- 安価・安定・供給の技術開発
- 海外からCO2燃料を輸入するシステムの確立
- 世界規模での技術開発の支援政策
- 国際的なISOや排出量取引の制度の取り決め
- グリーンファイナンスなどの資金提供不足
これらが課題にあげられる。 ※グリーンファイナンス:環境問題に取り組む事業への資金提供
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