ビリオネア・インド

※ 毎朝、5分以内で読める書籍の紹介記事を公開します。

※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。

序章

 超富裕層の大頭、格差がもたらす複合的問題、企業が持つ強固な権力、本書はインドの現代史のなかで決定的な意味を持つ、これら3つの要素を描き出していきます。

 インドではカースト、民族、宗教にによって分断された社会が続いていました。独立するまでは、イギリスの植民地政府の行政官、それに無数のマハラジャと彼らが率いる藩王国によって支配されていたのです。それが1947年からの数十年で、インドは少なくとも経済的には平等性が増し、西洋の工業国の基準からすれば質素な暮らしぶりのエリートによって率いられるようになります。

 2000年代初めになると、高学歴で外国とのつながりを持つエリートに富が流れ込んでいきました。最上位層に蓄積された資産は特に注目されたのです。

 しかし、重要なのは、インドは依然として貧しい国です。国民の平均年間所得は、2000ドルにもなりません。国際通貨基金(IMF)は、アジアの主要国のなかでインドは中国と並び不平等の度合いがもっとも高いと指摘しているのです。

 超富裕層の登場、縁故主義、産業経済の負の側面といった環境を、外国メディア特派員として目の当たりにしてきました。

書籍情報

タイトル

ビリオネア・インド

大富豪が支配する社会の光と闇

第1刷 2020年8月15日

訳者 笠井亮平

発行者 及川直志

発行 (株)白水社

装幀 谷中英之

組版 閏月社

印刷 (株)三陽社

ISBN978-4-560-09782-3

総ページ数 447p

著者

ジェイムズ・クラブツリー

 ジャーナリスト。ムンバイ支局長としてインドに駐在し、現在はシンガポールの国立大学で実務准教授を務めています。欧米の主要メディアで執筆活動を展開しています。

出版

白水社

幻の栄光

 オバマ大統領の上級アドバイザーをしていたアメリカの経済学者ラリー・サマーズは、「ムンバイ・コンセンサス」というアイデアを披露しました。

 インドは、若者人口を主力としてテクノロジーを発展し、世界の工場とは違う民主的なインドを目指せるという主旨でした。

 10年に及ぶ屈辱と孤独は消え去りつつあるような様子を見せ、社会開発プログラムへの投資増加を両立できそうに思えていたのです。貧困率は低下し、都市化が加速しました。一時期は、インドが中国の経済成長率を上回るのではないかと言われた時代もあったのです。

 しかし、高度成長は長く続かず、2008年の世界金融危機を大半の国よりスムーズに乗り切ったものの、その後遺症は国内の成長を蝕みました。

 つい最近までインドの手つかずのポテンシャルを称讃していたアナリストは、マイナス方面に目を向けるようになったのです。

インドの「アンマ」

※イメージ

 インド映画の女優として確固たる地位を獲得し政治家へと転向した人物が、インドの「アンマ」(母ちゃん)ことジャヤラリターです。

 彼女は靴マニアで、党が崩壊した後にその実態をメディアによって暴露された人物でもあります。

 タミル・ナードゥは腐敗の蔓延にもかかわらず、彼女の統治下で大きな発展を遂げています。インドがグローバル展開を受け入れていく流れのころに、他を圧倒する存在になっていきました。

 海外に出て行った多くの移民や活発な港湾、アジアと西洋をつなぐ海上輸送路に近いというポジションを背景に、タミル・ナードゥはインドで外国ともっとも強くつながる地域の1つとなっています。

 タミル・ナードゥは、外国からの投資誘致で他州からうらやましがれるほどの実績を上げているのです。1996年には、アメリカのフォード車がインド初の工場を建設する計画を立てた際、ジャヤラリターは土地の無償提供や優遇税制の適用を提示することで、チェンナイへの誘致に成功しています。これを機に、ヒュンダイ、ルノー、BMWといった企業もこれに続きました。テクノロジーのハブ拠点にもなり、ビジネスやソフトウェアの研究開発センターが次々と作られていき、社会的発展も短期間で達成しています。

 学校給食の無料化、女児殺し防止プログラム、教育水準の向上などの基本的な治安対策と、教育対策をも展開してきたリーダーです。

 ジャヤラリターはメディアで批判されるも、彼女が築いてきた功績を否定するものはほとんどいません。死去された後ですら悪く言う人は少ないです。裁判所の審理記録によると、彼女の個人資産は1000万ドルを若干下回る程で、かなり額ではあるものの、ほかと比べてとびぬけて大きいというほどではありませんでした。

豪商一家

 ニューデリーにある赤レンガで建てられてたナヴィーン・ジンダルの本拠地は、ほかの豪商の邸宅と同様に一読の寺院のような造りになっており、建物のそこここに父の写真が飾られていました。近代的な多国籍企業というよりも中世の宮廷のようです。インドでは家族のつながりがビジネスで強力な接着剤であり続けていることを如実に表しています。

 大規模実業家一族が生じるきっかけは大変動がもたらしたもので、小規模な「ラーラー企業」のオーナーがある日突然、正真正銘の豪商に成長し、海外展開に向けた野心や幅広い業種から得られる富を手にするようになります。

 インドの豪商には魅力的かつ社会的な性格の持ち主が多く、大邸宅に飲みに来ないかと誘ってパーティーをすることがあります。そうした顕示は、格差があまりに大きいインドでは極端に表れているようです。

 「汚職の季節」を経てインド企業は大きな打撃を受けました。重要な石油精製施設をロシアの石油関連企業に売却する豪商もいました。信仰に走る人がいたのも不思議ではありません。

 ビジネスを積極的に展開してきた企業も、今後は趣味を露呈する頻度は控えて、立て直しにかかると語っています。

スーパー・プライムタイム

 インドでテレビニュース・ブームが始まったのは1995年2月5日のことでした。インド発の民間ニュース番組「ドゥールダルシャン」が解禁され、政府の管理下にあったニューデリーTV(NDTV)も放送の独占に風穴を空けていったのです。

 声量満点の司会者がシリアスな内容の討論番組というメディアも誕生し、私もゲストとしてときどき出演させてもらっていました。

 タイムズ・ナウという報道番組は、視聴率を上げるために、視聴者に共感するような「誰かの不幸」を次々に取り上げていきました。英連邦競技大会の汚職、2G汚職、石炭開発汚職、IPLの不祥事など、問題が途切れることはありません。劇的な速報ニュースと国民の怒りを報道姿勢としたもので、多くの視聴者がひきつけられました。

 モディ政権下でメディア規制の波を懸念する声も大きくなっています。2017年には、NDTVのオフィスやプラノイ・ロイとラディカー・ロイの自宅が警察による捜索を受けました。表向きは銀行からの貸付をめぐるとトラブルとされていましたが、国民の多くは政治的な思惑によるものという見解が大半です。カシミール軍基地への武装勢力による襲撃事件が発生した際、その様子を生中継したことが国家安全保障を毀損するものとして政府が糾弾されていました。

感想

サイト管理人

サイト管理人

 インドの人口動態を考えたら、さらなる経済発展に期待が持てるという理論が果たして正しいのでしょうか。

 この書籍を読み終わった後で同じことが言える人は、かなり少ないと思います。コンノート・プレイスなどを旅行した人は解るかもしれませんが、日本人が考える十分なインフラ設備とは言えないかもしれません。(※汚くはありません)

 インドの経済圏に興味がある人も多いかもしれません。ですが個人的には、クミンや日本に輸出できない激旨の香辛料のが気になります。アニメの影響などで、日本語を喋れる人の良い変人が多いのも気になります。そういう人が一定数いて、企業展開をインドに広げることも他のアジア圏の国よりはやりやすいとも感じます。

 インドの貧富の差が極端すぎる事実はあまり知られておらず、経済や人口動態を語られて推移図のようなものを貼った経済本がありますが、実際はこの本で語られていることが近いのではないでしょうか。

 2020年の書物ではありますが、インドの実状を知るのにはオススメできる読みものになっています。

 下にリンクを貼っておきますので、本書の購入を検討してみて下さい。

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