雑誌「Newton 2022 9月号」

Focus

 話題の最新研究やニュースをコンパクトに紹介するコーナーです。
 毎月いくつかの情報を紹介されています。ここでは個人的におもしろかった記事を、さらにコンパクトにしてピックアップします。

電機で動く人口繊毛

ジャンル:工学

出典 Cilia metasurfaces for electoronically programmable microfluidic manipulation

Nature,2022年5月25日

 生体内の組織表面で多数の繊毛が規則的に動くことで、物質が運ばれていきます。

 アメリカ、コーネル大学の大学院生ワン氏らは、電気化学的な方法で駆動する人口繊毛を開発しました。白金とチタンの二重層に電圧をかけることで、体内の繊毛に似た運動が再現できたそうです。

 この装置による任意のパターンの流れを作りだすことに成功しています。電子回路の技術を使えば安価で作成できるとのことです。

 微小なポンプや液中を動くマイクロロボットへの応用が期待できるとのべています。

死後も復活する神経の活動

ジャンル:医学

出典 Revival of light signaling in the postmortem mouse and human retina

Nature,2022年5月11日

 中枢神経の器官は移植に適していないと考えられてきました。しかし、死後の散発的な神経細胞の活動などの報告から、中枢神経系に不可逆的な死が生じているのか疑問が残ります。

 アメリカ、ユタ大学のアッバス博士らは、中枢神経系のモデルとして網膜を用いて、死後の神経活動の解析をしました。

 ひとの網膜では死後5時間後でも、網膜の神経細胞は光に応答することが確認できたのです。

 将来的には、死亡したドナーから網膜を取り出して移植することが可能になるかもしれないと語ります。

トンガ火山の津波のメカニズム

ジャンル:地学

出典 Global Tonga tsunami explained by a fast-moving atmospheric source

Nature,2022年6月13日

 巨大な火山噴火は、地球全体におよぶ津波を発生させることがあります。フンガトンガ・フンガハアパイ火山の噴火は、21世紀で最大の噴火であり、広島の原爆の数百倍の規模であったというのです。

 ポルトガル大気海洋研究所のオミラ博士らは、地球全体の海水面の変動や大気の変化、衛星データなどにもとづいて、フンガトンガ・フンガハアパイ火山の噴火を分析しました。その結果、衝撃波が津波の発生に関係していることを突き止めたのです。

 衝撃波による津波は考えられてきたことですが、今回の観測でさまざまなデータが得られました。詳細な物理的メカニズムが解明され、今後の津波の予測や防災にもきわめて重要となるでしょう。

Focus Plus リュウグウの砂からアミノ酸を発見

 惑星探査機「はやぶさ2」は、2020年12月6日に小惑星リュウグウの岩石サンプルを地球に持ち帰りました。

監修:渡邊誠一郎 名古屋大学大学院環境学研究科教授
執筆者:小熊みどり

アミノ酸を含む有機物を検出

※イメージ

 2022年6月10日、サンプルの分析結果の第一報として注目されたのが、「アミノ酸」の検出です。

 500種類のうち20種類がひとなどの生命の体をつくる「タンパク質」の構成要素となります。リュウグウのサンプル粒子からはアミノ酸23種類をはじめとする有機物がみつかりました。その中にタンパク質の構成要素となるアミノ酸が10種莉ほど含まれていることがわかっています。

 隕石は地球に落下するときに大気に触れているため、そのアミノ酸が元々の隕石の成分であるかを判断するのが難しいのです。リュウグウのようなC型小惑星が、地球声明を生んだアミノ酸などの有機物の起源であるかどうかは、今後の報告を待つ必要があります。

太陽系の最も資源的な物質

※2022年8月28日(日)まで展示中とのことです。場所:蒲郡市生命の海科学館 1F 海のひろば

 リュウグウのサンプルは最も新鮮な太陽系の資源物質であると報告されています。CIコンドライトと似ていることがわかりました。C型小惑星は太陽系にたくさんあるため、希少な隕石だと考えられてきたオルゲイユ隕石などは、実は地球外であればたくさんある物質かもしれません。

 今回の論文で確かめられたことは、Ctgata 惑星に炭素や水が存在することです。今後さらに、リュウグウの物質を、粒子レベルで個性を調べることで詳細な全体像が提示できるといいます。

打ち上げ花火の最新科学

監修:丁 大玉 足利大学大学院 情報・生産工学専攻教授
執筆者:北原逸美

基本的な花火玉の構造

 いちばん外側は親星、その内側の星は芯星という火薬で、それぞれ酸化剤、可燃剤、炎色剤からなります。

 割薬は、もみがらやコルクの表面に火薬をぬってつくられます。割薬の粒と粒の間にすき間があるため、一瞬で花火玉全体に火が回る仕組みです。

花火の色を決める炎色反応

炎色剤
$$\ce{SrCO3}$$ $$\ce{Sr(NO3)2}$$ $$\ce{SrC2O4}$$
$$\ce{Na2C2O4}$$
$$\ce{Ba(NO3)2}$$ $$\ce{BaCO3}$$ $$\ce{BaSO4}$$
$$\ce{CuO}$$ $$\ce{CuCO3}$$ $$\ce{Cu(銅粉)}$$

 金属原子や化合物の分子が高温になると、原子や分子に含まれる電子がもつエネルギーが高くなり、電子は光を放出することで元のエネルギー状態に戻ります。

 放出する光のは中が金属によって異なるため、その金属元素に特有の色の炎の色があるのです。その現象を「炎色反応」といいます。

 炎色反応を利用して、ストロンチウム化合物やナトリウム化合物、バリウム化合物で花火の色をつくります。他にも、アルミニウムで白、チタン金属粉で金と、高温で光る現象を利用したりして、調色に工夫がされているのです。

座りっぱなしに注意

監修:竹村洋典 東京女子医科大学 総合内科学・総合診療科分野教授
執筆者:西村尚子

1日中座っている人は死亡リスクが上昇

 歩数の減少とともに重大視されているのが、座りっぱなしによる健康被害です。日本人は1日約7時間とかなり長く座っています。

 22万人以上を対象にしたオーストラリアの調査によると、1日の座位時間が4時間未満の人にくらべて、8時間以上の人は脂肪率が1.15倍、11時間以上の人は1.4倍に達することがわかっています。

 また、1日3時間以上座っている人は、それ以下の人よりも8年後の死亡リスクが2倍以上になるというアメリカの報告もあるのです。

 座りっぱなしだと、血流や血中の脂質代謝などが低下してしまうことにより、動脈硬化が進み血糖値を下げてしまうからです。生活習慣病のリスクが高くなります。

 デスクワーク中心の方は、1時間に1度は立ち上がってデスクから離れるようにしましょう。

日本人は世界一座っている

 シドニー大学などが世界20か国に対して行った調査によると、日本人は20か国のうち平日1日あたりの座位時間が420分と、サウジアラビアと並んで最も長いことがわかりました。

 もっと短い時間のポルトガルの3倍です。またアメリカの約2倍長く座っているとでています。

 テレワークの普及などにより、運動量が低下しています。座りっぱなしは将来の死亡リスクを高めることが知られるようになりました。軽い散歩やストレッチなどを取り入れ、こまめに運動するようにしましょう。
 国内外問わず、警告を促す医師が増えています。アメリカのクリニックを営む医師が、座りっぱなしよる健康への影響について書籍を出すほどです。

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