FOREIGN AFFAIRS REPORT No.9 2023

もくじ

  • 中国経済の失速と台湾
    • 「中国経済の奇跡」の終わり ―アメリカが門徒開放策をとるべき理由
      • アダム・S・ポーゼン
    • 新時代の米台関係
      • スーザン・ゴードン
      • マイケル・マレン
      • デビッド・サックス
  • 先進国と格差
    • 欧米の所得二極化と社会混乱 ―ラテンアメリカ化する欧米社会
      • ブランコ・ミラノヴィッチ
  • 国際社会のイメージと現実
    • 大国間競争という幻想 ―曖昧で変動する世界
      • ジュード・ブランシェット
      • クリストファー・ジョンストン
    • 民主国家インドという幻想 ―利益は共有しても、価値は共有していない
      • ダニエル・マーキー
    • 米中大利とドイツの立場 ―微妙なバランスを維持できるか
      • リアナ・フィックス
      • ゾンユアン・リュー
    • 中露、イランの政治的強さの秘密 ―革命が授ける独裁体制のレジリアンス
      • ルーカン・アフマド・ウェイ
  • Current Issues
    • 半導体と米中台トライアングル ―TSMCとサプライチェーン
      • ラリー・ダイアモンド
      • ジム・エリス
      • オーヴィル・シェル
    • 準備通貨、ドルの運命
      • アンシュー・シリプラプ
      • ノア・バーマン
    • 中東の外交戦略と中国 ―中東諸国の真意は何か
      • ジェニファー・カヴァナ
      • フレデリック・ウェフリー

「中国経済の奇跡」の終わり

監修

アダム・S・ポーゼン
ピーターソン国際経済研究所所長

中国経済の不調

 「ゼロコロナ」政策を止めることを決定し、政策変更後の数週間、中国の需要が急増するとの期待から、石油、銅、その他の商品価格世界的に上昇しました。

 一部は成長したのです。国内観光業、ホスピタリティ産業、小売サービス業の需要増は経済の回復に手堅い貢献をしています。2023年の最初の数か月は輸出も伸び、住宅用不動産市場の低迷も底を打ったかにみえたのです。

 しかし、第2四半期の終わりの段階におけるGDPの最近データはまったくを指し示しています。慎重な外国人投資家や財政難の中国地方政府は、当初の勢いを当てにしていません。耐久消費財消費と民間投資が、かつてのレベルには遠く及ばない水準で低迷する一方で、家計貯蓄率が急上昇しました。

 3年間にわたる非常に厳しく、コストのかかったゼロコロナの都市封鎖が終わったいまでも経済の低迷は続いています。

政治に関わるな

 2013年に国家主席に就任した習近平は、厳格な反政府腐敗キャンペーンに乗り出しました。彼のライバルは、政界から姿を消しています。汚職まみれの官僚を罰することには誰もが賛成するわけで、このキャンペーンは大衆に人気があったのです。

 2020年からは、ハイテク産業の大物ジャック・マーをみせしめにし、彼の会社の1つアント・グループの新規株式公開を強制的に納期させ、マーを公の場から締め出しました。

 欧米の投資家はこの事態を警戒したが、今回もほとんどの中国人は喜ぶか、無関心です。

 しかし、パンデミック対策は話がべつでした。小売りは何の支援もなく閉鎖され、住民は住宅に閉じ込められ、彼らの生活と生計は先に進めなくなりました。

 中国でハイテク輸出工場の1つであるフォックスコンの労働者も経営幹部も、グローバル・サプライチェーンから切り離されるかもしれないと不満を漏らしています。なんの事前警告も説明もなく、財産や生活を失うことへの恐怖がいまも続いています。この感情は経済データでも裏付けれていて、企業の倒産や不良債権の余波が成長の足を引っ張り、地方政府の投資を制約され続けています。また、アメリカの対中貿易・技術輸出の規制も、中国の報復策と同様に、ある程度のダメージを与えているようです。

門戸開放政策

 中国人が投資よりも貯蓄を続け、輸入が多くを占めるハイテク製品やその他の耐久消費財よりも、国内で提供されるサービスにより多くの支出を続ければ、中国の貿易黒字は全般的に拡大し続けるでしょう。

 経済領域でのコロナの長期的余波が、習近平の権力掌握を弱めると考えるべきではありません。成長率が鈍化しても、独裁者は政権を維持することが多いのです。

 公共住宅への補助金、ハイテク企業への圧力行使路線の囚虜を保証するなど分野別の対策によって、習近平の成長を底上げできるかもしれません。

 現状、中国の若者の失業率、特に高学歴の労働者の失業率は厄介なほどに高いのです。中国共産党の政策が人々の長期的な経済機会と安定性を低下させ続ければ、党に対する不満は高まっていくでしょう。富裕層は安定をつくために、財産を外国に移し、生産や投資を国外で運用しています。出口戦略は中国社会で魅力的となりつつあるのです。

 アメリカは、中国の企業、投資家、学生、労働者がより良い環境を求めて外に出ていくことだけでなく、こうした貯蓄の流入を歓迎すべきではないだろうか。

民主国家インドという幻想

監修

ダニエル・マーキー
米平和研究所
シニアアドバイザー(南アジアプログラム)

幻想が政策の前提とされている

 インドがアメリカとの関係を強化し始めた後も、ニューデリーはモスクワとのつながりを維持しました。イラン問題をめぐっても対米協調を拒否しながら、ミャンマーの軍事政権とは友好関係を維持しているのです。

 共通価値という概念そのものが、幻想に思えます。

 ナレンドラ・モディが9年前にインド首相に就任して以来、民主国家としてのインドの地位はますます疑わしくなっているのです。

 少数派のイスラム教徒に対する社会暴力が急増しています。イスラム教徒の市民権が脅かされるものです。彼らは報道機関の言論を封じ、反対派を黙らせようとしています。そのため、バイデン政権が米印パートナーシップを共有する価値観に基づくと表明するたびに、危うさを感じざるを得ません。

 インドを、グローバル・デモクラシーの闘いにおける同盟国と考えるのではなく、便宜的同盟国とみなすべきではないでしょうか。

インドの現実

 インド独裁制への傾向は、アメリカにとって多くの問題を引き起こします。ニューデリーへの信頼性が低下し、権威主義的決定を予測するのが難しくなるのです。

 さらに、ニューデリーが民族主義的になれば、インドの安定は揺るがされます。インドにいる2億人のイスラム教徒のマイノリティを抑圧することで、長期的な暴力が繰り返されることになるのです。国内治安上の問題への対応に気を奪われれば、外交に投入できる資源も許容できる範囲も狭められ、対外的に建設的な役割を果たす正当性も損なわれます。

 BJP(インド人民党)が非自由主義的であることが明らかであるにもかかわらず、バイデン政権の高官たちは、モディ政権を公に批判することを避けてきました。大きな亀裂が生じると考えているからでしょう。

 インドは苦闘するありふれた民主国家ではありません。世界でもっとも人口の多い国で、グローバル・サウスのリーダーです。福音主義的なキリスト教の米政治集団は、インドの少数民族に対する劣悪な扱い、宗教的自由の弾圧、報道の抑圧を深く憂慮しています。ニューヨーク・タイムズなどのこういったコラムに対し、BJPの指導者たちは「反インド的」だと決めつけているのです。

 ワシントンの有力者たちも、インドの非自由主義的政策に対する警戒を強めています。

中国の脅威に対抗するものでなければならない

 インドは人口が多く、経済も、兵力も、技術も、核兵器も保有しています。そして、今のところ中国に対して懸念を抱いているのです。けれど、国境紛争後も、インドは他の大国との柔軟な関係を多極化した世界を望んでいます。実際、中印貿易は米印貿易とほぼ同じレベルにあるのです。

 米政府高官にとって、インドとの協力は中国よる差し迫った脅威に対抗することに的をしぼったものでなければなりません。最新戦闘機エンジンの共同生産とインドへの技術移転を認証する前に、アメリカはよく考えるべきでしょう。

 オーストラリア、インド、日本、アメリカの4カ国による安全保障対話(Quad)への期待も引き下げるべきでしょう。Quadがリベラルな民主国家によるインド太平洋連盟になることを期待していますが、インドのアイデンティティを考えると、不可能です。Quadにできることは、この地域での中国の侵略を効果的に抑止することです。

準備通貨、ドルの運命

監修

アンシュー・シリプラプ
経済担当エディター@www.cgr.org

ノア・バーマン
経済担当エディター@www.cgr.org

米ドルの世界的役割

 米ドルは、課題を抱え込んでいるけれど、今も王者の座を維持しています。国際貿易の決済に選ばれる主要通貨です。

 世界の決済システムにおけるドルの中核性が、アメリカの金融制裁の威力を高めています。米ドル建てで行われるほぼすべての貿易、他の諸国の貿易も、アメリカの経済制裁の対象にできるのです。ドルによる決済能力を遮断することで、ワシントンはブラックリストに載せた国のビジネスを追い込むことができます。

脱ドル化は起きているか

 ドル体制への反発を強める国はあります。BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)首脳会議でブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領「なぜ自国通貨で貿易ができないのか」と問いかけています。

 しかし、代替に使う通貨には問題があるのです。BRICS共通通貨の案は取り扱う中央銀行や金融政策が存在しないなどの構造的な問題があります。ユーロは金融市場もあるが、統合された債券市場がないため準備通貨として魅力に欠けます。人民元は、世界の外貨準備の3%ほど占有していますが、資本の流れに規制を課しているため国際的に使いづらい部分があります。特別引出権(SDR)は、ユーロ、ポンド、人民元、米ドル、円の通貨で構成されているものの実際の通貨として使えません。暗号通貨は、通貨として採用すると、危機に直面した政府の政策が制約されるという批判があり、交換手段としての実行ができる可能性を低下させるという指摘があります。

ドル支配体制のコスト

 他国が貿易黒字を維持しようと自国通貨の価値を下げるために介入する為替操作でもアメリカはダメージをうけます。ドル建て外貨準備を積み上げることで、特定国が通貨価値を人為的に低く保てば、輸出競争力は高まり、アメリカの輸出は相対的に割高になります。中国は歴史的にこのやり方を意図的にとってきました。

 パンデミックを前にスイスや台湾なおの先進経済も、自国通貨の価値を低下させようと、ドルやユーロなど準備通貨を買う為替介入策をとっています。

 しかし、ドルが準備通貨としての地位を失えば、アメリカは経済的、政治的に深刻な影響を受けます。脱ドル化が進めば、ドル体制の下で、アメリカの価値観によって導かれてきた世界金融システムのルールも書き換えられることになるでしょう。

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