新しいゲノムの教科書

※読んだ本の一部を紹介します。

※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。

はじめに

 中高生程度の予備知識をもった読者を対象に、DNAに基づく生命科学の大枠を、生命情報とという観点から説明したいと思います。

 幅広く生命科学の話題を多く取り込んで概観しようと欲張りました。今回は生命科学の中でも古典的は分子生物学の内容に絞っています。

 科学は使い方を誤れば、私たちにとって大きな危険性を持つ存在です。生命科学は、健康寿命を延ばすのに役立っていることは間違いありません。しかし、クローン人間の問題や遺伝子操作して知性を向上させる可能性など、SF小説の内容がまじめに議論されなければならない時代になっています。

書籍情報

タイトル

新しいゲノムの教科書

DNAから探る最新・生命科学入門

第1刷 2023年1月20日

発行者 鈴木章一

発行 (株)講談社

印刷(本文) (株)KPSプロダクツ

印刷(カバー表紙) 信毎書籍印刷(株)

製本 (株)国宝社

ISBN 978-4-06-530572-0

総ページ数 286p

著者

中井謙太

東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター教授。

 京都大学科学研究所助手、岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所、大阪大学細胞生体工学センター、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターを経て、現職についています。

出版

ブルーバックス

遺伝子の概念

UnsplashSangharsh Lohakareが撮影した写真

 世間では便宜上、遺伝子をおおざっぱに、RNAにコピーされるDNA領域とみなしていることが多いようです。本書でもそのような意味で遺伝子という言葉を使うことにします。

 典型的な遺伝子は、たんぱく質の設計図になっているのです。

 DNAの部分情報がまずRNAというDNAとよく似た物質にコピーされ、そのRNAをもとにタンパク質が合成されます。

 遺伝情報には「どんな」タンパク質を合成するかという構造情報だけでなく、「どのような状況で」そのタンパク質を合成するかという制御情報も重要です。そのような情報は、タンパク質の構造情報が書かれている領域からは大きく離れた位置にあることが多く、よくわかってないことがあります。本来は、その制御領域も遺伝子としてみなされてもようはずですが、ゲノムのデータベースなどで記載される遺伝子の領域には、含まないのが普通です。

ウイルスとゲノム

Image by Tumisu from Pixabay

 ここでのウイルスは、独自の核酸ゲノムとそれを覆うたんぱく質の殻をもち、宿主の細胞の中でしか増殖できない染色体(病原体)としておきます。

 ウイルスは、生物と非生物の間に位置する存在とも言われ、生物の定義が難しいのと同様、ウイルスの定義も難しいのです。

 いろいろな生物を宿主にできるウイルスもいれば、特定の生物にしか感染できないと思われるウイルスもいます。地球上におそらく数百万種類のウイルスが存在しているのではないかと推定されているのです。

 ウイルスの基本構造は、核酸とそれを取り囲むタンパク質の殻からなる粒子です。ウイルスによっては、さらにエンベロープと呼ばれる膜に包まれています。

 ちなみに、ウイルスによる感染予防に石鹸やアルコールによる手洗いが奨励されるのは、エンベロープが石鹸などによって容易に破壊されるためです。

 タンパク質の殻はカプシドと呼ばれ、構成単位となるタンパク質が多数自発的に集まり、正二十面体などの立体対称性をもった構造をとります。この幾何学的形状は電子顕微鏡で観察できるのです。

 多くのウイルスが化学物質のように結晶化できることと併せて、ウイルスの非生物的一面を表しています。

三毛猫の説明

Image by Georgi Dyulgerov from Pixabay

 それぞれの細胞が将来、体のどの部分をこうせいするかという運命は、ゲノムDNAに書き込まれたプログラムによって指定されています。

 したがって、それぞれの細胞はそれまでどのような運命決定の道筋をたどってきたかという情報を保持している必要があるのです。しかし、その情報はDNAの塩基配列ではあり得ず、他の形で記載されている必要があります。

 DNA塩基配列以外の情報を細胞記憶といい、エピジェネティック情報というのです。

 三毛猫は、体毛の茶色と黒色に関する遺伝子は共通で、X染色体上に存在します。

 雄猫の細胞ではX染色体が1本しか存在しないので、どの細胞も同じアレル(対立遺伝子)をもち、原理的には三毛猫は存在しません。

 雌猫では、2本のX染色体のうち、1本がエピジェネティック機構により不活化されます。基本的にランダムに選ばれて、それぞれの染色体に茶色と黒色のあれるが存在する場合は、複雑な経路の模様が出現するのです。

個人ゲノムとメタゲノムを組み合わせる

UnsplashCDCが撮影した写真

 腸内細菌については、免疫・アレルギーなどと深く関わっているばかりでなく、肥満や精神疾患などを含む多様な疾患と関わっていることが明らかにされつつあります。

 腸内細菌叢の組成は、個人によって異なるし、同一人物でも年齢や生活習慣、体調などの違いによって変化します。大きな分類では食習慣が似ている国などの集団などによって、ある程度グループ化することもできるのです。

 個人の核ゲノム情報だけでなく、腸内細菌叢などのメタゲノム情報もセットとしてつけ加えて、個人ゲノム情報に基づく個人別医療の発展が考えられるかもしれません。

 実に様々な疾病と腸内細菌叢が関係していることが明らかになりつつあります。

 健康な人の腸内細菌を移植すると、ある種の病気の症状が改善するという報告もあるのです。今後の研究によって、詳細な発症メカニズムや治療への道筋が明らかになることが期待されています。

あとがき

 著者が大学院生として研究者の道に入ったとき、何冊かのブルーバックスを読んで大変感銘を受けました。そこで筆者が精いっぱい努力してみた結果が本書です。

 初心者も含めた幅広い読者にゲノムを知ってもらいたいとう編集部の考えもあって、ページ数は抑えめにしています。

 本書に興味を持った読者であれば、発生学、進化学、医学、免疫学など、さらにそれらの内容に関わる情報を自分で調べることも可能だと信じたいです。

 科学を取り巻く状況は大きく変わってくるような気がします。本書の読者の中からそのような発展への貢献を、志してくれるかたが出れば、著者としてこれに過ぎる喜びはありません。

感想

サイト管理人

サイト管理人

 前提としたゲノムの基礎情報が前半に記述され、後半に今後の発展していくであろうゲノム技術が示されています。

 ある程度、学校の内容をまともに習っていた方であれば、ゲノムの基礎から楽しめる書籍です。それなりに知識がある方であれば、後半のゲノム技術についての内容を楽しめる本になります。

 当たり前のように、「遺伝子」という表現を使っている情報があちこちにありますが、その内容について詳しく解っている読者や解説者、執筆者はどれだけいることでしょう。

 ワクチン云々を噂するよりも、原点に立ち返ってゲノム技術を学んでみてはいかがでしょうか。

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