雑誌「Newton 2022 4月号」

Focus

 話題の最新研究やニュースをコンパクトに紹介するコーナーです。
 毎月いくつかの情報を紹介されています。ここでは個人的におもしろかった記事を、さらにコンパクトにしてピックアップします。

禁煙すると太る理由

ジャンル:医学

出典 Gut microbiota modulates weight gain in mice after discontinued smoke exposure

Nature, 2021年12月8日

 禁煙したひとの13%は、1年で10キログラム以上体重が増加しています。

 腸内に生息する細菌叢の変化が関係していることは示唆されていました。

 イスラエル、ワイズマン研究所のフラー博士らは、喫煙マウスに禁煙させて分析をかけることにしました。

 結果、腸のエネルギー吸収を促進する代謝産物は減少していたのです。一方、抗生物質で腸内細菌を減らしておいた喫煙マウスが禁煙した場合は、体重の増加は見られませんでした。
 禁煙をすると腸内細菌が何らかの形作用し、エネルギーを吸収しやすくなるようです。

 博士らは、今後、禁煙によって生じる体重増加を抑制できるようになるかもしれないと、のべています。

ポットの水が注ぎ口からたれる理由

ジャンル:物理学

出典 Develped liquid film passing a smoothed and wedge-shaaped trailing edge; small-scale analysis and the ‘teapot effect’ at large Reynolds numbers

Journal of Fluid Mechanics, 2021年9月8日

 ティーポットから紅茶をカップに注ぐとき、慎重になりすぎると紅茶が注ぎ口から根元の方へとたれてしまうことがあります。俗にいう「ティーポット効果」です。実はこの現象は解明されていませんでした。

 オーストラリアのウィーン工科大学のシャイフル博士らは、この問題の厳密な理論モデルをつくり、その解析解を求めることに成功しました。

 液体にはたらく慣性力と表面張力が関係していて、両者の相互関係によって発生するかどうが決まります。
 ティーポットの注ぎ口の下の縁に常に液体のしずくが存在していて、その大きさは液体が流れる速度に依存しているのです。そして紅茶を注ぐ速度がある値より小さくなると、しずくが維持できなくなり、根元の方へと流れていきます。

 これが正しいことを証明するには、さまざまに条件を変えた実験が不可欠だと、博士らはのべています。

シラミを利用してミイラの遺伝子を解析

ジャンル:人類学

出典 Ancient human genomes and environmental DNA from the cement attaching 2,000 year-old head lice nits

Molecular Biology and Evolution, 2021年12月28日

 古代人の遺体から細胞を採取して、遺伝子の解析を行われるようになってきました。その一方で、倫理的な理由で遺体を壊して、サンプルを抽出することが難しくなっているようです。

 デンマーク、コペンハーゲン大学のペダーセン博士らは、アルゼンチンの約1500~2000年前のミイラを傷つけることなく、遺伝子配列を解析することに成功しました。

 毛髪についたアタマジラミの卵をとり上げて、そこに残されていた頭皮細胞を解析するという方法です。

 博士らは、ミイラの遺伝子情報を読み取る手法の有効性をたしかめることができたとしています。

Focus Plus

 話題のニュースを紹介するコーナーです。

世界初、脊髄損傷にiPS細胞を移植

ジャンル:医学
監修:岡野栄之 慶應義塾大学医学部教授
執筆:山本尚恵

 脊髄を損傷すると、まひ、排泄障害といった機能障害が起きることがあります。失われた損傷は、自然に回復することがありません。

 2019年に厚生労働省から実施許可を受けた臨床研究の一環で、コロナ過で中止されていました。ようやくiPS細胞から作りだした、代用細胞を移植する手術の1症例目を実施することができたのです。

手術

 手術は、脊髄の損傷個所にiPS細胞で作った「神経前駆細胞」を注入するという方法で行われます。

 全身麻酔をかけ、背中側から超音波で損傷個所を確認します。顕微鏡で目視しながら切開し、脊髄を露出させるのです。損傷の中心部に神経前駆細胞を注入し、しばらくして傷を閉じて手術終了となりました。

 今回の手術で以下のことが見込まれるだろうとされています。

  1. 神経回路の修復
  2. 損傷個所の環境改善
  3. 神経伝達速度の推進

すでに、動物実験などでは確認されていることです。

安全性の確認

 細胞移植後に考えられるリスクは、

  • 移植した細胞が過剰増殖をおこして、腫瘍となってしまう
  • 細胞が定着せずに、流れてしまう
  • 細胞の増殖に伴い、神経が圧迫されてしまう
  • 他人の細胞を入れることで、拒絶反応を起こしてしまう

などがあります。こうしたリスクを確認するのが、本研究の主な目的です。

 また、この手術は亜急性期のごく限られた期間において有効だとされています。そのため、安全な細胞をあらかじめストックしておく必要があるのです。

国内10万人の脊髄損傷患者を救うために

 まず、移植後3カ月目までの出0田をもとに安全性を評価します。試験の継続が可能と判定されたら、2回目以降の実施をしていく予定です。

 脊髄損傷の患者は年間5000人ほど増加しており、国内の総患者数は10万人以上といわれています。

今回の研究が、患者やその家族にとって、朗報となりますように。

「やる気」の心理学

監修:鹿毛雅治 慶應義塾大学教職課程センター教授
執筆:前田武

動機づけ

 「内発的動機づけ」とは、ある行動が楽しい、面白いといった理由で自発的に取り組みことです。

 「外初的動機づけ」とは、何らかの報酬を得るために、あるいは罰を避けるために行動することです。

 人間には、根本的に「自分の事は自分でコントロールしたい」という欲求があり、他人に何かをいわれることは不快感をともないます。

ほめること、しかること

 9歳~11歳のこども達を対象にグループA・B・Cにわかれて、ほめるグループ・しかるグループ・言葉をかけないグループに分けて実験を行いました。

 結果、ほめることしかしないAグループが他のグループに比べて、圧倒的に成績が良かったのです。ほめることの効果は大きいといえるでしょう。

 あまり簡単なことでほめられるとバカにされたような気になって、むしろ不愉快を感じることもあります。

 しかるのと、言葉をかけないのとでは、成績に変化がありません。
上手な褒め方を大切にしましょう。」と鹿毛教授はおっしゃっています。

目標のたて方

 小さく具体的な近接目標をたてるとよいでしょう。

 目標が達成されることで、成功体験を覚えます。ひとつひとつクリアしていくことで、モチベーションが維持しやすいと考えられています。

 モチベーションを保つという意味では「習慣」が注目されています。朝起きてコーヒーを飲むという一連の動作から、勉強や仕事にとりかかることを繰り返していると、自動的にパターン化しやすいのです。

やる気は使い過ぎると疲労する

 どうもやる気が出ない、やる気を出しても長続きしない、誰もが悩まされることがある心理状況でしょう。「自我消耗」とよばれています。

 いくら努力しても解けないパズルを挑戦してもらい、クッキーを好きなだけ食べて良いとしました。そうすると、ギブアップするまでの時間が19分でした。違うグループにはクッキーを我慢させたところ8分ほどだったいいます。

 意志力には限りがあり、休まなければ集中力を維持することができないのです。

 失敗する経験を何度も繰り返してしまうと、「何をやってもムダ」と学習してしまい、モチベーションを維持できなくなってしまいます。「学習性無気力感」とよばれており、成果がでないことを繰り返してしまうことは、気力維持のうえで致命的なのです。

最新レッドリストが伝える野生生物の危機

監修:石井信夫 東京女子大学名誉教授
執筆:薬袋摩耶

レッドリストに選ばれる絶滅危惧種とは

絶滅 (EX)
野生絶滅 (EW)

深刻な危機 (CR)
危機 (EN)
危急 (VU)

準絶滅危惧 (NT)
低懸念 (LC)

 赤で囲ったCR、EN、VUが絶滅危惧種に当たります。

 IUCNのレッドリストは、現在、随時更新してオンラインで参照できるようになっています。

国連や経済界などで活用

 レッドリストは、世界の生物多様性が保たれているかを示す重要な指標となります。

 保全に必要な対策を決めるための重要な手がかりを握っているのです。SDGsでも、陸と海の生物多様性の保全が掲げられています。

 レッドリストの動物保全は、見た目が地味な生物や人間の生活に害をなす生物への取り組みがおろそかになる傾向があります。

 生物が絶滅していくのは、自然の摂理かもしれません。ですが、人間活動による環境破壊が絶滅のスピードを加速させているのはまちがいないのです。

野生生物を守るための新たな取り組み

 保全活動を評価するため、「グリーンステータス」の国際基準の導入を進めています。

 保全活動の効果や回復レベルを数値化して、あらゆる指標をつくろうというものです。

 点数をつくることで、客観的に評価できる、見通しがしやすくなることを期待しているようです。

 トナカイは2016年に、オオカワウソは2021年に、絶滅危惧種に指定されています。

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