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目次
書籍情報
スマホ社会と紙の本
発刊 2024年5月20日
ISBN 978-4-8460-2368-3
総ページ数 212p
高橋文夫
日本記者クラブ個人会員・日本外国特派員協会正会員。
日本経済新聞ニューヨーク特派員、編集委員を経て、日経BP、日経BP出版センター社長などを勤めた。
論創社
- はじめに
- 第1章 読書体験
- 『田舎教師』『生れ出づる悩み』『宮本武蔵』『冒険児プッチャー』……
- 日経文化面 篠節子、群ようこ、……
- 『いつもそばに本が』『本は、これから』の場合
- 第2章 本の三つの特性
- 本のアフォーダンス_なぜ本が好きなのか
- 「アフォーダンス」とは
- 八百万の神々
- SDGsにもつながる
- ノーマンによるアフォーダンス・デザイン理論
- AIもアフォーダンスと結びつく
- 里程標(マイルストーン)としての本
- 『トム・ソーヤーの冒険』『あしたのジョー』『ハツカネズミと人間』……
- シュリーマンの生涯を決定づけたプレゼント本『トロイアへの道』
- 書き込み(マルジナリア)
- 「サードプレイス_飛び切り居心地がよい場所」と相性が良い本
- 第三の場所としてのサードプレイス
- サードプレイスとしての居酒屋と書店
- 米バーンズ&ノーブル書店が草分け
- 本のアフォーダンス_なぜ本が好きなのか
- 第3章 紙の本をどう評価するか
- 『ペーパーレス時代の紙の価値を知る』
- 認識するのに「負荷が軽い」紙の本
- 「推敲は断然、紙」
- 「国語が危ない」_読者・読解力調査
- 本を読むのは好きだが、「忙しくてダメ」
- 「本を読まない」大学生が半数以上
- 読解力_日本、授業改善などに努める
- 第4章 ネット時代に本とどう付き合うか
- 本は振るわず_コロナ禍後の出版事情
- 書店数はかつての半分
- 電子コミック好調
- 「スマホ」「プラットフォーム」「ソーシャルメディア」浸透
- 「スマホ」
- 「プラットフォーム」
- くもの巣状の「ソーシャルメディア」
- プラットフォームの都市機能
- 「生粋」のデジタル人間
- 『本嫌いのための新読書術』
- ペナックの「読者の権利10ヵ条」
- 本に引き込まれる前に、一旦停止
- 「パーソナル化」されるデジタル情報
- 書店がもたらすセレンディピティ
- 『文学は実学である』『和解』『冬の宿』『桜島』『いやな感じ』……
- 本に共感
- 自己を取り戻す_「読書療法」
- 「没頭」し「没入」する
- 「いま、ここに。生きる」
- ネット時代の影の部分
- デジタル認知症
- 「グーグル効果」
- 「タイパ」
- 電子ゲームで注意力は決して磨かれない
- スマホは脇に置いても、それに気を取られる
- オンライン「ZOOM」は目を合わせないのが欠点
- 「短縮ことば」には表情がない
- 本は振るわず_コロナ禍後の出版事情
- 第5章 電子書籍化の流れ
- 新しいエディターシップ
- 外山滋比古、梅棹忠夫
- デジタルメディアは、エディターシップ不在
- 紙の本は「錨」役
- 内外の電子書籍化の機運
- 電子書籍先進国の米国ではeブック革命起きず
- しかし米、eブック化への備えは十分
- わが国の電子書籍化、低速前進
- 電子書籍元年(2010年)から十数年
- 『居眠り磐音』電子書籍化
- はなから電子書籍を
- 神の本を出し続けるためにも、電子化に注力
- 「ノート」_デジタル化の新たな動き
- 国会図書館など、デジタル化進む
- 新しいエディターシップ
- 第6章 ネット時代、本に望む
- 画一・均質化、標準・規格化に抗う
- すべてがデジタルデータに還元される
- 個性を大切に
- 「人生は一度限り」ノーベル賞受賞記念講演_ヨシフ・ブロツキー
- 「イノチという自分だけの素材 娘達への手紙」_檀一雄
- 自己にこだわる
- 「知識」よりも「叡智」
- 【要白】【クオリア】【間】【気配】_デジタルで解決がむずかしいもの
- 【要白】
- 【クオリア】
- 【間】
- 【気配】
- 交錯期の活字・デジタルメディア、ともに享受
- 両メディア、いま峠に
- 画一・均質化、標準・規格化に抗う
- 第7章 本を超えて
- 関野吉晴・各幡唯介『赤毛のアン』
- 歌会始「本」
- おわりに
書籍紹介
『スマホ社会と紙の本』は、デジタルメディアが生活の中心となる中で、紙の本が果たす役割について探求しています。スマートフォンが私たちに与える利便性や情報アクセスの迅速さといった利点は否定できません。しかし、高橋氏は、紙の本には依然として特別な価値があると主張します。
本書は以下のようなテーマを掘り下げています:
- デジタル時代の情報過多と集中力の低下
スマートフォンを通じて大量の情報に触れることで、私たちの集中力や記憶力にどのような影響があるのかを分析します。 - 紙の本の持つ物理的な魅力と心理的効果
紙の本が提供する触覚的な経験や、読書という行為がもたらす心理的な安らぎについて考察します。 - 教育と紙の本
デジタル教材が増える中、紙の教科書やノートが教育に与える影響について検討します。特に、学習の定着率や理解度に関する比較が興味深い点です。 - 環境問題とメディアの未来
紙の本の製造が環境に与える影響と、デジタルメディアのエネルギー消費についての議論を通じて、持続可能なメディアの在り方を模索します。
本書の魅力
『スマホ社会と紙の本』は、単なるテクノロジー批判にとどまらず、デジタルとアナログの共存を提案しています。高橋氏の筆致は鋭く、同時に親しみやすい語り口で、読者に新たな気づきを与えてくれます。また、具体的なデータや事例を多く取り入れることで、理論だけでなく実践的な視点からもアプローチしています。
電子書籍と本、それぞれの利点
デジタル時代における紙の本の価値を再認識させてくれる『スマホ社会と紙の本』は、現代を生きる私たちにとって非常に重要な一冊です。スマートフォンと紙の本、それぞれの利点を理解し、上手に使い分けることで、より豊かな情報生活を送るためのヒントが満載です。興味深いテーマに満ちたこの本を、ぜひ手に取ってみてください。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
ペーパーレス時代だが、紙の価値を知る
紙が読みやすいと評価されているのは、絵本、専門書、教科書、問題集、専門誌、学術雑誌などです。普段は電子メディアを使って読書する人でも、紙の方が最適だと考える人が多いです。
「紙で使いたいもの」に関する調査では、書籍、手紙、マンガ、雑誌、手帳、新聞が6割を超える支持を得ています。一方で、デジタル媒体で使いたいものとしては、写真や地図などが挙げられています。
紙の本で読む場合と、ウェブなどの画面で見る場合では見方が異なるようです。画面の場合、表示されている内容をクリックすることで操作が始まります。しかし、読むという作業に関しては、電子メディアの方が作業量と時間が増えてしまいます。紙の文書なら両手で同時に複数の文書を扱うことができるという大きなメリットがあります。
また、画面より紙の方が認識するのに明らかに負担が少ないことがわかっています。ウェブ画面のハイパーテキストは便利ですが、文章を集中して読む妨げになりやすいという特徴があります。リンク先のページに画面が切り替わることで、読んでいた内容への関心が途切れがちになるのです。
ペナックの「読者の権利10ヵ条」
- 読まない権利
- 飛ばし読みする権利
- 最後まで読まない権利
- 読み返す権利
- 手当たり次第に何でも読む権利
- ボヴァリズムの権利(書いてある内容に没入する)
- どこでも読んでいい権利
- あちこち拾い読みする権利
- 声を出して読む権利
- 黙っている権利
この10ヵ条は、読書が及ぼす影響力を諾いながらも、本とのかかわり合い方については、形式にとらわれず肩の力を抜いて読書そのものを楽しむことが肝心と呼びかけるものです。
紙の本を出し続けるためにも、電子化に注力
識字率が高く、情報への需要が高い日本で、電子書籍のほとんどがコミックであるという状況は不自然です。
出版大手は電子出版に積極的に取り組んでいるものの、出版界全体ではまだ「印刷本の電子化」の範囲にとどまり、防衛的な対応に見えます。
本を読まない人が増えている現在、紙の本の出版が事業として成り立たなくなる可能性もあります。これからも紙の本を出版事業として続けていくためには、体力のあるうちに一般書の電子書籍化に道筋をつける必要があるのではないでしょうか。
電子で解決できない【クオリア】
数と数の関係は方程式で表すことができます。この世界の物質の客観的なふるまいは、全て記述することができるのです。一方で、人間の経験の中には、計量できないものがあります。これを現代の脳科学では「クオリア」(感覚質)と呼びます。
人間の経験の範囲は非常に広く、合理的な経験ばかりではありません。むしろ、多くの生活経験は合理的ではないのです。
たとえば、赤色の感覚や水の冷たさ、漠然とした不安、ゆるやかな予感。私たちの心の中には、数値化できない微妙で切実なクオリアが満ちています。
科学は数値化できる客観的な物質の変化を扱いますが、クオリアに満ちた主観的な体験は、それを定量的なデータに変換して初めて科学の対象となります。しかし、その過程で私たちの体験の多くは失われてしまいます。