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目次
書籍情報
<エクス・リブリス>
ムーア人による報告
レイラ・ララミ
カリフォルニア大学リバーサイド校の教師。作家。言語学博士。
2014年に発刊した3作目の小説(本書)で数々の賞を受賞した。
白水社
- 第1章 フロリダの物語
- 第2章 私の誕生の物語
- 第3章 幻の物語
- 第4章 アゼンムールの物語
- 第5章 行進の物語
- 第6章 売買の物語
- 第7章 アパラチーの物語
- 第8章 セビーリャの物語
- 第9章 アウテの物語
- 第10章 ラマトゥッライの物語
- 第11章 筏の物語
- 第12章 不運の島の物語
- 第13章 三つの川の物語
- 第14章 カランカフア族の物語
- 第15章 イグアセ族の物語
- 第16章 アババレ族の物語
- 第17章 トウモロコシの国の物語
- 第18章 クリアカンの物語
- 第19章 コンポステラの物語
- 第20章 メキシコ・テノチティトランの物語
- 第21章 宮殿の物語
- 第22章 大農場の物語
- 第23章 来客用宿舎の物語
- 第24章 帰還の物語
- 第25章 ハウィクーの物語
書籍紹介
この作品は、16世紀の新大陸探検を背景に、モロッコ出身の黒人奴隷ムスタファの視点から描かれた壮大な冒険譚です。実在する報告書を基に、歴史の影に埋もれた被支配者の声を鮮やかに再構築した本書は、ピュリツァー賞の最終候補にも選ばれた傑作として、既に多くの読者を魅了しています。
物語は1528年、スペインの征服者ナルバエス率いる探検隊が、現在の米国フロリダ州に上陸する場面から始まります。金塊を追い求め、欲望に駆られた探検隊は過酷な旅に挑みますが、病気や物資不足、部族の襲撃、そして人肉食といった試練に直面し、壊滅状態に陥ります。主人公ムスタファは、かつて商売に励むも破産し、自らを奴隷として売った過去を持つ人物です。探検隊に同行する彼は、過酷な環境の中で生き延び、友好的な先住部族から言語や習慣を学びながら、仲間と共に旅を続けます。生存者わずか四人となった一行は、すべてを失ったことで一時的に自由と平等を感じ、部族の伝説や治療者として新たな役割を担います。しかし、ヌエバ・エスパーニャにたどり着いた彼を待っていたのは、再び奴隷としての運命でした。
この小説の魅力は、ムスタファの語りを通じて、歴史の公式な記録では見過ごされがちな被支配者の視点が鮮明に描かれている点にあります。ララミは、モロッコ出身の作家として、自身の文化的背景を活かし、奴隷として連れられた黒人男性の内面や葛藤をリアルに表現しています。冒険の場面は、空気や匂いまで感じられるような没入感に満ち、読者を16世紀の過酷な新大陸へと引き込みます。
主人公はイスラム教徒で、キリスト教を信じる他の探索隊メンバーとは神に対する理解が違います。そして主人公は黒人奴隷なので、インディオたちへの眼差しがスペイン人貴族らとは違うのです。白人が虜囚を鞭で打ち、金のありかを吐かせようとする場面が第三者目線で表現されています。白人視点で語られるような美談ではなく、歴史に埋もれている影を想像させるような読み物です。
訳者あとがきに書かれている本書の説明
実在したモロッコ人の奴隷、エステバニコによって記されたというフィクションの回想録です。
ムーア人とはヨーロッパからみた、北西アフリカのイスラム教徒の呼称です。
歴史的事実をみてみましょう。スペインの征服者(コンキスタドール)のパンフィロ・デ・ナルバエス率いるフロリダ探検隊は、1528年に、現在のアメリカ合衆国フロリダ州タンパ湾近くと思われる場所に上陸したあと、黄金を求めて内陸を探索します。
探検隊は約8年の放浪を経て奇跡的にメキシコにたどり着くも、生存者は4名でした。そのうちの3名による報告書は実際にまとめられていて、その英訳はネットでも読めます。しかし、黒人奴隷エステバニコの証言は一言も記録されておらず、「4人目の生存者はエステバニコというアゼンムール出身のアラブ系黒人である」という1行のみ情報が記載されています。
作者のレイラ・ララミは、自身と同じモロッコの出身とされる元奴隷の黒人の視点から物語を描いたのがこの小説です。