鑑定学への招待

※ 毎朝、5分以内で読める書籍の紹介記事を公開します。

※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。

はじめに

 「美術史」が明らかにすべき本丸は、作品を生みだした「背景」に存在する時代や作者の「精神」です。どのような「価値観に基づいて成立しているのか、歴史的に地位付けます。

 技術が高く出来栄えが優れた作品ほど、それを生みだした時代や作者の「精神」もしくは「価値観」が強く反映されていると、みることができるのです。その作品に内在する素性を語り尽くすことができたなら、その1っ点の作品で時代や作者の「精神」が十分に説明できます。

 美術史において偽物の存在は、作品の健全さ危うくし得る壁となります。真偽の問題は避けて通ることができないのです。

 科学的、合理性を備えた「鑑定学」の構築が不可欠と考え、その方論について論述していくことにします。

書籍情報

タイトル

鑑定学への招待

「偽」の実態と「観察」による判別

第1刷 2023年3月10日

発行者 松室徹

発行 中央公論美術出版

印刷・製本 (株)理想社

ISBN978-4-8055-1501-3

総ページ数 212p

著者

杉本欣久

黒川古文化研究所に勤務を経て、2018年4月より東北大学大学院文学研究科の准教授として日本近世美術史を研究しています。文学博士。

出版

中央公論美術出版

江戸時代の偽

作者: KONI

 幕府の御用絵師、浅岡興禎は、日本美術史の研究で重視される『古賀備考』という書物を編纂しました。画家の伝記資料を多く集めた画人です。

 「巻三十八・狩野譜」の記述では、狩野養川院養信は持ち込まれる絵画の鑑定に判断しかねる作品が多かったといいます。「一瞬斎祐也」という落款を改変し、「尚信筆」「守景筆」「常信」とし狩野養川院惟信によるものとして、9代目の狩野養川院養信のもとに持ち込んだところ、いずれも真筆と極められ、非常に高値がついたと書かれています。

 無名の画家が、狩野尚信や久隅守景の作品に改められたとする記述があるのです。現在でも尚信と守景の名はよくしられており、真筆が少ないために骨董市場において非常に尊ばれる画家です。

経年変化

Image by G.C. from Pixabay

 大気や重力により、古いものの方が損傷や劣化の度合いが増すのは自然の理です。

 美術品についても素材によって違いはあるものの、古いものであればあるほど損傷が多く、修理が施された割合も高くなっています。

 歴史を超えて現代まで伝えられている事実は、過去に多くの修理修復を経ていることの証左でもあるのです。

 経年によって、表面が荒れてかさつき、付着した塵などが茶色く変色します。紫外線や酸化による「ヤケ」という現象です。水で行う「アク取り」や、過酸化水素を用いた漂白「洗い」により、ある程度の白さを取り戻すことはできます。

 物理的に損傷や虫害痕に別紙や別絹をあてがい、場合によっては上から画の欠損部分が書き加えられます。この「補筆」が経年時間や制作下限の手がかりにもなるのです。例えば、裏側から切り取った紙をあてる「折れふせ」「かすがい」という修理が行われていたら、江戸時代より室町時代以前の作品であることが予想できます。

金箔、金砂子、金泥

 金を薄く延ばした金箔、金箔を砕いた金砂子、金砂子を糊と混ぜた金泥、調度品として屏風や壁面を装飾するのに使われます。

 豪華さを表出するのはもちろん、少しでも暗い室内を明るくするためでもあったようです。

 金箔を二重にして強度と輝きを増す技法が江戸時代前期から使われています。金砂子に関しては、経年のヤケをごまかすために幕末から明治にかけて加えられているものが多いのです。

 屏風のなかには本来の落款やそれを削った痕跡を隠すため、金砂子が蒔かれるときがあります。左右端の砂子の上に不自然な落款がある場合には、その様態を注意深く観察する必要があるのです。

あとがき

 「ものをどのように観れば良いか」といった実践面に関するカリキュラムが、大学には用意されていません。

 本ら、美術史の入り口として存在しても良いはずですが、30年を経てもなお、そのような講座があるとはほとんど耳にしたことがありません。

 あるは博物館で展示されていた屏風に触れたとたん、どう見ても400年を経たようには思えずに、それまでの自分の経験に照らし合わせて大いに矛盾を感じたのです。

 歴史の痕跡は「現場」と「ものを観る会」の場において学びました。ようやく「真実」に近づく手がかりが得られたようで、刺激にとんだ非常に楽しい時間だったことを覚えています。

感想

サイト管理人

サイト管理人

 葛飾北斎の八方睨鳳凰図は、江戸後期に描かれたとは信じられないくらい迫力のある天井絵です。残っているというもの凄いし、終末期に諦めとか怒りだとかが感じられる北斎の心情とかも想像できて、印象に残っています。

 昔から悪いことを考える奴はいるようで、無名の新人の絵を安く買って、著名の画家のサインを書いて売ってしまうという。また、それを気づかずに買うという。知識は必要だなと感じる話でもありました。

 自分には関係ないように思える書籍でしたが、新しい知識に触れることができて面白かったです。

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