雑誌「Newton 2022年8月号」

Focus

 話題の最新研究やニュースをコンパクトに紹介するコーナーです。
 毎月いくつかの情報を紹介されています。ここでは個人的におもしろかった記事を、さらにコンパクトにしてピックアップします。

ヘリウムと人間活動

ジャンル:地学

出典:Increasing atmospheric helium due to fossil fuel exploition

Nature Geoscience,2022.5.9

 地球の大気は、ヘリウムの同位体であるヘリウム4を富んでいます。

 人が化石燃料を使用することによって、大気中に増加していると予想されているが、分析精度などの問題で、未解明な部分が多いようです。

 アメリカ、スクリプす海洋研究所のビルナー博士らは、質量分析装置を用いて大気中のヘリウム4の量と窒素量を高精度に測定しました。

 結果、過去50年間にわたり、窒素の量はほとんど増加せず、ヘリウム4の量が増加していることが明らかになったのです。1974年から2020年までにヘリウム4の量は年間390億モル増加しているといいます。

 ヘリウム3とヘリウム4の量の比は一定というデータがあります。つまり、ヘリウム3も増えていることになるのです。

 これらの同位体ヘリウムの上昇量を考えて、人間活動だけで上昇しているという説明がつかず、別の発生源を考える必要がでてきます。

 過去の測定データや人間活動による影響の見積もりの見直しをしなければなりません。

生物よりも高くジャンプするロボット

ジャンル:工学

出典: Engineered jumpers overcome biological limits via work multiplicationm

Nature,2022.4.27

 これまで優れた跳躍力をもった昆虫などを模したロボットが、多数つくられてきました。しかし、その能力には限界があったのです。

 アメリカ、カルフォルニア大学サンタバーバラ校のホーカーズ博士らは、まず生物の跳躍メカニズムの弱点を調べ、それを補う人工的なメカニズムを組み込むことを考えました。

 生物の筋肉は一方向にしか伸び縮みしませんが、モーターの膜鳥機能を用いると、1回の動きでより大きな伸縮が可能になります。

 弓形状のカーボンファイバーのバネをゴムと結合し、モーターの巻き取り機能を使ってエネルギーを蓄積する方法を考案しました。

 このメカを用いたロボットは今までの跳躍ロボットの3倍を超える33メートルもの到達高度を記録しています。

Focus Plus 「暗黒の細胞死」を発見

ジャンル:生物学
監修:ユ・サガン 理化学研究所生命機能科学研究センター 動的恒常性研究チームリーダー
執筆者:西村尚子

腸の入れ替わりをもたらす新しい細胞死

 腸の粘膜細胞は入れかわりが激しく、人では2日ほどで入れかわります。

 理化学研究所にユ・サガン博士らは、ショウジョウバエの腸でおきる細胞死が、アポトーシス(遺伝的にプログラムされた細胞の入れ替わり)とはまったく異なるものであることを明らかにしました。

 腸に蛍光を発する遺伝子を導入して観察したところ、特定のたんぱく質が増えるにしたがって、蛍光を失い最後は黒くなったのです。この新しい細胞死を「エレボーシス」と命名しました。

暗黒の細胞死はヒトにもあるのか?

 アポトーシスには組織に炎症がおきたりする危険があります。エレボーシスは、組織への影響が少ないと考えられるのです。

 今後解明する課題として、エレボーシスが腸以外のほかの組織でもおきるのか、ハエ以外の動物でもみられるのかを調べます。

 人にもエレボーシスがみられるとしたら、人工的に止める手段はないか、なんらかの疾患と関連していないかの検証をしたいと考えています。

ロボット最前線

監修:江間有沙 東京大学未来ビジョン研究センター准教授
監修:大澤博隆 慶應義塾大学理工学部 管理工学科准教授
執筆者:

災害用ロボット 最新ロボットが人命を守る

 「SMURF」は、迅速に拾い地域を探査することができる小型二輪車ロボットです。左右の車輪は独立して動かせて、凹凸のある地形でも機敏に移動することができます。ガレキの中にもぐりこみ、すばやく被災者を見つけることをめざして開発が進められているのです。

 ガレキの中を探索するヘビ型ロボットもあります。全身がナイロン製の毛でおおわれており、胴体に内蔵されたモーターを振動させながら、前進します。そして素早く方向転換できる特徴があるのです。

 人を持ち上げて運んだり、かれきの除去を手伝うロボット「Quince」もあります。

 被災者の命を救るためのロボットが開発されているのです。

ロボット技術で広がる身体拡張

 ロボットで人の能力を超える試み、身体拡張が注目されています。

 東京大学と慶應義塾大学では、機械の腕を背中に2本装着する「MetaLimbs」という身体拡張システムを研究中です。足の指を動かすことで機械の指を動かし、足の甲とひざを動かすことで機械の腕を動かします。接触センサーによってつかむ感覚などが足側に伝わるようになっているようです。

 他にも、しっぽのようなものを取り付けて、体のバランスを取ってくるものなどがあります。これらの研究では、身体そのものとしてつかう機能性の他に、本来はない器官が体に加わったことで脳がどんな処理をするのかといった点にも注目されているようです。

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