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目次
書籍情報
エデュケーション
大学は私の人生を変えた
タラ・ウェストーバー
出生証明もなく、学校へも行けなかったが、大学に進学した兄の影響を受けて大学に通うと決意する。独学で大学資格試験に合格すると、哲学や歴史学の分野で博士号を取得するまでに至る。
2020年からハーバード大学公共政策大学院 上級研究員。
早川書房
- プロローグ
- 第1部
- 第1章 善を選ぶことを知る
- 第2章 助産婦
- 第3章 クリーム色の靴
- 第4章 アパッチ族の女
- 第5章 偽りのない汚れ
- 第6章 盾
- 第7章 主の導き
- 第8章 小さな売春婦
- 第9章 完璧な人
- 第10章 羽毛の盾
- 第11章 本 龍
- 第12章 フィッシュ・アイズ
- 第13章 教会のなかの静寂
- 第14章 行き場のない思い
- 第15章 もう子供じゃないから
- 第16章 不実の人間、服従しない天国
- 第2部
- 第17章 聖なるままで
- 第18章 血と羽
- 第19章 ビギニング
- 第20章 父たちの独唱会
- 第21章 スカルキャップ
- 第22章 ささやいたこと、叫んだこと
- 第23章 私はアイダホ生まれ
- 第24章 武者修行
- 第25章 痛烈な言葉の作用
- 第26章 波を待つ
- 第27章 私が女性だったら
- 第28章 ピグマリオン
- 第29章 卒業
- 第3部
- 第30章 全能の手
- 第31章 悲劇、そして茶番
- 第32章 広い家のけんか腰の女
- 第33章 物理の魔術
- 第34章 実体のあるもの
- 第35章 太陽の西
- 第36章 回転する四本の長い腕
- 第37章 贖罪のための賭け
- 第38章 家族
- 第39章 バッファローを見ながら
- 第40章 エデュケーション
- 著者覚書
- 謝辞
- 原注
- 注釈
- 訳者あとがき
書籍紹介
この本は、教育という力がどれほど人を変え、自由へと導くかを鮮やかに描き出した一冊です。著者のタラさんは、アメリカ・アイダホ州の厳格なモルモン教徒の家庭に生まれ、現代社会から隔絶された環境で育ちました。彼女の家族は政府や医療、教育機関を拒み、自給自足の生活を貫いていました。学校に通うことなく、読み書きを独学で学び、17歳まで正式な教育を受けたことがなかったタラさんが、どのようにしてケンブリッジ大学で博士号を取得するに至ったのか、その壮絶な軌跡が本書の魅力です。
彼女は学校教育を受けず、家族のスクラップヤードで働きながら、危険と隣り合わせの生活を送っていました。しかし、知識への渇望が彼女を突き動かし、独学で大学入学資格を得て、ブリガム・ヤング大学に入学します。そこから彼女の人生は劇的に変わり始めます。初めて学ぶ歴史や哲学、科学の世界に圧倒されながらも、彼女は自分の中に眠っていた可能性を見出していきます。やがてハーバードやケンブリッジといった名門大学での学びを通じて、彼女は自分のアイデンティティや家族との関係を見つめ直すことになります。
教育を通じて得た自由と、家族や信仰との断絶という代償。その間で揺れ動く彼女の内面は、読む者の心を強く打ちます。また、教育が単なる知識の習得ではなく、自分自身を再定義するプロセスであることを、彼女の物語は教えてくれます。この本を読むと、自分の人生や学びの意味について改めて考えるきっかけになるでしょう。教育の力と人間の可能性を信じたい方、逆境を乗り越える物語に心を動かされたい方に、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
ピグマリオン

ケンブリッジ大学で講義が始まってから2週目に、生徒全員に指導教官を割り当てられました。私の指導教官は、カレッジの前副学長でホロコーストに関する著者で高い評価を得ているジョナサン・スタインバーグ教授です。
教授の部室を訪れ、歴史家を研究すると話しました。自分が何を学びたいかをしっかりと伝えられたかどうかは自信がありません。ちらりと教授はわたしを見て、「君が受けた教育について教えてください。どこで学校に通ったのですか?」
私が独学でブリガム・ヤング大学に合格してケンブリッジ大学に推薦されるまでの過程を、ここまでお膳立てしてくれたケリー博士に事前に知らされていたのでしょう。アイダホで育ち、学校へ行っていないことを話すまで、教授は満足しませんでした。
彼は微笑みながらいった。「奇跡だ。まるで『ピグマリオン』の世界に足を踏み入れたみたいだ!」
精神的奴隷から自分を解放しよう
僕たちの精神を解き放つことができるのは、僕たちだけなのだ
[ボブ・バリー『Redemption Song』]
自分が書いていた小論文の余白に、この歌詞を書き込みました。インターネットで、ボブ・マーリーの足に発見された黒色腫について知ったのです。
精神的奴隷から自分自信を解放しよう。マーリーは、自らの死の1年前にこの詩を記しています。肺、肝臓、胃、脳に黒色腫が転移していたときのことです。
マーリーがラクタフェリアンであり、この宗教では「傷のない身体」を信じていました。
私は父の信じるモルモン教の家庭で育ったため、できるだけ病院や医学には頼ってこなかったのです。私は父の世界を手放したにもかかわらず、まだ私の世界で生きる勇気を見つけられていないことに気づきます。
私は電話を手にして、番号をダイアルしました。
「ワクチン接種をしたいのですが」と、私は看護婦に告げたのです。