夜更かしの社会史/著者:右田裕規、近森高明

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書籍情報

タイトル

夜更かしの社会史

安眠と不眠の日本近現代

発刊 2024年2月10日

ISBN 978-4-642-03931-4

総ページ数 256p

著者

右田裕規

山口大学時間学研究所准教授。

著者

近森高明

慶応義塾大学文学部教授。
都市、社会学、日常生活に当てた書籍多数。

著者

竹内里欧

京都大学大学院教育学研究科准教授

著者

西村大志

広島大学大学院人間社会科学研究准教授

著者

井上義和

帝京大学共通教育センター教授

出版

吉川弘文館

もくじ

  • 序章 安眠/不眠を欲望する社会…右田裕規
  • Ⅰ部 眠らない工場の出現―生産領域の不眠化
    • 第一章 規範化する睡眠とロマン化する不眠―二〇世紀初頭における睡眠言説のマッピング―…近森高明
      • はじめに―「この俺の不眠」と「みんなの睡眠」
      • 一 睡眠言説のマッピング―睡眠はいかに語られたか
      • 二 規範化される睡眠―睡眠言説の構造分析
      • 三 ロマン化される不眠―例外者の括り出し
      • おわりに―現代に続く「よき睡眠」と「よき人生」のループ
    • 第二章 「夜なべ」の近代史…右田裕規
      • はじめに
      • 一 近世の夜業
      • 二 村から都市への移行
      • 三 照明技術の変化
      • 四 夜業に対する社会的忌避の変化
      • おわりに
    • 第三章 夜業と興奮剤の二〇世紀…―ヒロポンからコーヒーへ―…右田裕規
      • はじめに
      • 一 近代興奮剤の略史
      • 二 ヒロポンと「機械」
      • 三 機械燃料のイメージ
      • 四 ドリンク剤・コーヒーの「稀釈」
      • おわりに
  • Ⅱ部 眠らない街の出現―消費領域の不眠化
    • 第一章 夜の消費文化と商業照明…右田裕規
      • はじめに
      • 一 一九世紀末の夜の東京
      • 二 夜の消費文化の成長
      • 三 商業照明のシンボル作用
      • 四 戦時経済下の夜の東京
      • おわりに
    • 第二章 盛り場と安眠妨害―夜間レジャー施設の営業音の問題化過程―…右田裕規
      • はじめに
      • 一 カフェー征伐
      • 二 都市住人の夜間騒音被害の実態
      • 三 戦後の営業音規則
      • おわりに
  • Ⅲ部 安眠を支えるモノたち―睡眠の商品化
    • 第一章 寝床を電化する―「電気あんか」の技術社会史―…近森高明
      • はじめに―一枚の広告ポスターを読み解く
      • 一 電気あんかの出現―大正・昭和初期
      • 二 電気あんかの増殖―高度経済成長期
      • 三 電気あんかの衰退―ポスト高度経済成長期
      • おわりに
    • 第二章 時間の再魔術化と呪術的なモノの蘇り―「寝かしつけ」をめぐって―…竹内里欧
      • はじめに―「睡眠中学習」から「睡眠後学習」へ
      • 一 「睡眠力」の時代
      • 二 「寝かしつけ」にまつわる新聞記事の言説
      • 三 「寝かしつけ」に役立つとうたうモノの氾濫
      • 四 時間にかんするアンビバレントな願望と願望に応えるモノたち
      • おわりに―時間をめぐる「力」の奪還
  • Ⅳ部 眠りの人工的制御という夢―睡眠の資源化
    • 第一章 覚醒と睡眠のあいだを生きる―坂口安吾の覚醒剤と睡眠薬―…西村大志
      • はじめに
      • 一 規律・勤勉・集中
      • 二 覚醒剤と過覚醒
      • 三 睡眠薬と人工睡眠
      • 四 意志
      • おわりに
    • 第二章 夢の勉強法としての睡眠学習…井上義和
      • はじめに―一九八二年の「明け方のつぶやき」
      • 一 睡眠学習への欲望
      • 二 第一号機〈SLミラクル〉の誕生
      • 三 睡眠学習器の仕組みとモデルチェンジ
      • 四 空想科学小説と録音再生技術
      • 五 「悪夢の洗脳法」か「夢の勉強法」か
      • おわりに
    • 終章 眠りのコントロールからマネジメントへ―二〇〇〇年代以降の睡眠言説―…近森高明
      • 一 睡眠をめぐる「問題―解決」の転換
      • 二 「質」へのフォーカス―「最高の睡眠」へ
      • 三 可視化・数値化―スリープテックの世界
      • 四 ライフハック化―「超一流」の誘惑
      • 五 脱規範化と超管理化のゆくえ  
  •  あとがき

紹介

 眠りとその社会的文脈を掘り下げた学術的な一作です。眠り、特に安眠と不眠がどのように社会的、文化的、そして経済的要因に影響されてきたのかを探求しています。

 現代社会がどのようにして眠りを欲望の対象として捉えているのか、産業化が進む中での睡眠の変化、夜間の消費文化の発展、商業照明の導入がいかに都市の夜、睡眠を支える技術や商品、そんな現代の夜について批判的に分析しています。

 睡眠という個人的な行為がどれだけ社会的な力によって形成されているかを深く掘り下げています。本書を読むことで、読者は日常の「睡眠」に対する理解を一新し、それがいかに複雑な社会的構造に支えられているかを理解することができるでしょう。これは、単なる睡眠の歴史を超え、現代日本における文化と社会のダイナミクスを理解する手がかりを与えてくれます。

ロマン化される不眠

 20世紀初頭の小説家たちは、「この俺の不眠」というロマンに浸り、それを自己のアイデンティティの拠点とするために、睡眠薬を机に忍ばせていました。彼らは、「みんな」が寝静まった深夜に、創作のペンを走らせていたのです。

 「みんなの睡眠」で推奨される安眠法は、単なる「方法」ではなく、適切なマネジメントによって好ましい状態へと導かれる個々のスキルリストです。

 就寝前の精神状態、食事の内容やタイミング、室温、照明、音響、寝具、姿勢、そして環境面や心理面にわたるさまざまなパラメータの操作と、その効果の因果関係は不明ながらも、最適化に向けた不断のコンディショニングが求められます。

 その点で、睡眠薬は因果関係が明確であり、直接的な制御手段としてわかりやすいものです。睡眠薬は神経系に対するシンプルな介入であり、直接的な操作を行います。

 睡眠薬が忌避されがちなのは、依存のリスクがあることや、「不自然」だと感じられることに加えて、生活マネジメントに対する規範や説教を遮断する性質があるためでしょう。

芥川龍之介の『催眠剤』
 芥川龍之介は睡眠薬を服用していたとされています。彼は生涯を通じて不安や抑うつの問題に悩まされ、特に晩年にはその精神的な苦痛が増していました。これらの精神的な問題は、彼の睡眠障害を悪化させ、それが睡眠薬への依存を高める一因となったと考えられています。
 また、自身の精神状態や睡眠薬への依存について、日記や書簡で言及しており、彼の文学作品にもその影響が見られることがあります。芥川の作品はしばしば彼自身の精神的苦悩を反映したものであり、その深い心理描写は彼自身の経験に基づいていると考えられます。彼は作中で睡眠薬を『催眠剤』と表現して、世間で言う睡眠薬のイメージとは切り離して考える傾向がありました。
 芥川龍之介の『催眠術』は、彼が1919年に発表した短編小説です。この作品は、不思議な魅力と深い心理描写で知られています。物語は、主人公が不眠症に悩まされ、催眠術師に助けを求めるところから始まります。催眠術師は主人公に催眠術を施し、その過程で彼の内面の世界が次第に明らかにされていきます。
 物語の進行とともに、催眠術師と主人公の間で繰り広げられる心理的な駆け引きが描かれ、読者は人間の心の奥深さとその複雑さを垣間見ることができます。また、この作品は芥川の他の作品と同様に、彼の文学的才能と深い人間理解が感じられる作品として評価されています。

夜の消費文化

 多くの夜間外出者は、娯楽的な消費や漫歩を目的としています。これは、前世紀末における夜業従事者が主役だった夜の光景とは質的にも大きく異なります。

 20世紀には、仕事帰りのサラリーマンや労働者を主な客層とする興行場や酒場が夜間の主な収入源となっていました。1930年代、税務当局の調査によれば、東京市内のカフェ、バー、ダンスホールでの年間消費総額は約300万円に達していたとされます。

 この時代の東京における夜の展開は複合的な影響を及ぼし、夜間消費文化の成長に寄与しました。照明技術の革新により夜の街に社会的な明るさがもたらされ、どの商店街でも1万人以上が楽しむ文化が根付いていました。

1930年代の夜の街
 街灯や提灯で照らされた通りには、食料品店、雑貨店、小さな食堂などが並び、地元の人々や時には観光客でごった返していたことでしょう。夜市が開かれることもあり、生鮮食品や衣類、手工芸品などが売られていました。
 この時代の商店街は、映画館や演芸場などの娯楽施設も人々を引きつける要素となっており、映画や演劇、落語などが楽しめる場所としても人気がありました。これらの施設は、特に若者やカップルに人気のスポットであり、デートの定番ともなっていました。
 この時代の夜の商店街は、現代のように大型ショッピングモールが主流となる前の、人々が直接顔を合わせながら商いを行う様子を色濃く残していました。

日本の子どもの睡眠

 全体的な傾向として、日本の子どもたちは夜更かしをしており、睡眠時間が短いとされます。

 世界17カ国・地域を対象にした0~36ヶ月の子どもたちの睡眠に関する調査では、日本の子どもたちの睡眠時間が17カ国・地域中で最も短く、就寝時刻も遅いことが明らかになっています。

 日本における子どもたちの睡眠問題は既に指摘されており、睡眠改善のための教育や啓蒙活動が注目されています。2006年から、文化庁が推進する「子ども生活リズム向上プロジェクト」の一環として、「早寝早起き朝ごはん」国民運動が展開されています。この取り組みには、子どもたちの概日リズムを整えるさまざまな活動が含まれています。

 実際、教育関係者、医師、学者、そして保護者が連携し、睡眠に関する工夫や知識の伝達、自身の行動パターンを見直すための記録帳の作成などが推進されています。

 文化庁や医師といった専門家が関与する教育活動においては、子どもたちを「上手に眠らせる」方法を伝授する記事が見られます。小中学生に対して「正しい寝方」に関する関心が高まっています。現代の子どもたちの「睡眠力」を育てることが、特に小さい子を持つ親に求められています。

日本の子どもの睡眠時間が足りない
 日本の子どもの睡眠時間については、多くの研究や報告があり、多くのケースで睡眠時間が不足しているとされています。特に学齢期の子どもたちは、学校の宿題、部活動、受験勉強などのプレッシャーにより、推奨される睡眠時間を確保できていない状況が見られます。
 日本の学生に推奨される睡眠時間は年齢にもよりますが、一般的には小学生で9〜11時間、中学生や高校生で8〜10時間が必要とされています。しかし、実際には多くの学生がこれよりも短い睡眠時間で過ごしていると報告されています。短い睡眠時間は、学習能力の低下や健康問題につながる可能性があります。

睡眠薬と人口睡眠

 20世紀初期には、覚せい剤の使用目的には、気分を高揚させることよりも、眠らずに仕事をすることがありました。覚せい剤の多量摂取により過覚醒となり、容易には眠れなくなります。

 眠れない状態でアルコールに頼ると、その睡眠効果だけでは不十分で、アセトアルデヒドに分解されると強い覚醒効果が現れます。次第に、錠剤でありながら注射のように即効性がある睡眠薬アドルムに頼るようになります。その凄まじい効果は短時間で消えるため、不足する睡眠を補うために再度服用します。これが繰り返され、催眠中毒に至ります。

 このような前時代の薬物乱用と、近代の精神病院での治療法は対比されることがあります。けれど、近代的な精神病院での持続睡眠療法は、健全な治療法として提供されます。

  • 現在の睡眠薬の例
    • ベンゾジアゼピン受容体作動薬(非ベンゾジアゼピン系)
      • 例:ゾルピデム(アンビエン)、エスゾピクロン(ルネスタ)、ゾピクロン(イミボン)
      • これらの薬は、睡眠の質を向上させ、入眠時間を短縮する効果があります。副作用は比較的少ないですが、依存性や耐性のリスクがあります。
    • メラトニン受容体作動薬
      • 例:ラメルテオン(ロゼレム)
      • この薬は体内の自然な睡眠リズムを模倣するメラトニン受容体に作用します。依存性や離脱症状がほとんどなく、他の睡眠薬に比べて副作用が少ないとされています。
    • 鎮静剤ではない睡眠薬
      • 例:スボレキサント(ベルソムラ)
      • オレキシン受容体拮抗薬として作用し、睡眠を誘導する新しいクラスの薬です。依存性が低いとされ、副作用も比較的少ないです。

 これらの薬剤にも潜在的な副作用があるため、使用する際は医師の指導のもとで慎重に行うことが重要です。また、個人の健康状態や他の服用中の薬によって、適切な睡眠薬は異なるため、医師との相談が必要です。自己判断での服用や用量の調整は避け、正しい使用法を守ることが大切です。

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