資本主義の中で生きるということ/著者:岩井克人

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書籍情報

タイトル

資本主義の中で生きるということ

発刊 2024年9月20日

ISBN 978-4-480-86485-7

総ページ数 382p

書評サイト 読書メーター

出版社リンク 筑摩書房

著者

岩井克人

イェール大学助教授、ブリンストン大学客員准教授。ペンシルバニア大学客員教授、東京大学経済学部教授、国際基督教大学特別招聘教授、東京大学名誉教授、日本学士院会員。2023年、文化勲章受章。

出版

筑摩書房

もくじ

  • エッセイ四編
    • ファンレター
    • 私の「幸福論」
    • 「自己疎外」と資本主義の論理
    • 『高慢と偏見』と資本主義の倫理
  • 半歩遅れの読書術
    • 吉川英治『宮本武蔵』
    • E・H・ゴンブリッチ『美術の物語』
    • シェイクスピア『ロミオとジュリエット』
    • アガサ・クリスティー『茶色の服の男』
    • 網野善彦『古文書返却の旅』
  • 時代の中で考える1 『思潮』から(2000―2004)
    • 小津安二郎と黒沢昭 日本映画の二つの世界性
    • 「瓶の妖鬼」を読む 「貨幣」の交換と「魂」の交換
    • 『ワイ・フェア・レディ』考
    • 市場と人権
    • 「言語・法・貨幣」が人間を自由にする
    • 経済学の「論理」と環境問題の「倫理」
    • 「アメリカ、アメリカ」
    • 「会社は誰のものか」再考
    • エンロン事件と経営者の倫理性
    • 会社はこれからどうなるのか? サーチ&サーチ社と株主の没落
    • デフレはなぜ悪いのか
    • 資本主義社会とエクイティ
    • 経済学を学ぶことの幸運
  • 時代の中で考える2 『経済教室』その他から(2008―2023)
    • 資本主義は本質的に不安定
    • 自由放任主義の第二の終焉
    • 期待が根拠、それがお金
    • インフレが資本主義とシェイクスピアを生んだ
    • 国際通貨と資本主義の未来
    • ビットコインと『貨幣論』
    • ピケティと株主主権論
    • 戦後70年に考える_「日本型会社システム」の可能性
    • 明治維新150年に考える_「日本資本主義論争」を超えて
    • 「社会契約論」再考_コロナ危機と二つのディストピア
    • グローバル化とその「敗者」
    • ポンコツ資本主義の修理法
  • 時代を超えて考える_『貨幣論』以降の研究から
    • 『貨幣論』の系譜
    • なぜ人文社会科学も「科学」であるのか
    • 新しい会社の形を求めて_なぜミルトン・フリードマンは会社についてすべて間違えていたのか
    • 信任関係の統一理論へ向けて_倫理と法が重なる領域として
    • 文楽と信任関係_「信任関係の統一理論へ向けて」付録
  • 時代の中で自分を振り返る
    • 私の幸運
    • 夏目漱石と「開発と文化」
    • 経済を学ぶこと幸運、日本で経済学を学ぶことの使命
    • 『経済学の宇宙』あとがき
  • 亡き人を悼む
    • 弔辞 石川経夫君(1998年6月30日)
    • 佐藤和夫先生(2001年9月21日)
    • 「大人」逝く_辻井喬さん追悼(2014年4月5日)
    • 宇沢弘文先生追悼(2014年9月28日)
    • 「師」としての小宮隆太郎先生(2023年6月)
  • あとがき

書籍紹介

資本主義の問題

 この書籍は、資本主義が持つダイナミズムとその弊害について、歴史的背景を交えながら解説します。彼の分析は、単なる経済理論にとどまらず、社会全体の構造や人間の行動原理にまで及んでいます。資本主義は、経済成長を推進し、技術革新を促す一方で、格差の拡大や環境破壊といった問題を引き起こします。

自由と不自由

 資本主義の「自由」と「不自由」について語るところです。市場経済の自由さは、個々の選択を尊重する一方で、不平等や競争の過度な圧力から逃れることが困難であるという「不自由」を生み出します。この二面性が、現代社会の複雑な問題を引き起こしていると指摘します。

資本主義の未来

 資本主義の未来についても展望を示します。テクノロジーの発展やグローバリゼーションが進む中で、資本主義はどのように進化し得るのか、またその進化が人間の幸福感や社会的正義にどのような影響を与えるのかを考察します。彼は、資本主義の枠組みの中で、より持続可能で公平な社会を実現するための新たな可能性についても言及しています。

資本主義を知ろう

 この本を通じて、読者は資本主義というシステムがもたらす利点と、それに伴う課題を理解することができます。著者の洞察は、経済学に興味がある人だけでなく、現代社会のあり方や未来について考えるすべての人にとって有益でしょう。『資本主義の中で生きるということ』は、単に経済システムの一端を知るだけでなく、自分たちの生活や価値観を見直す機会を提供してくれます。

試し読み

※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。

シェイクスピア『ロミオとジュリエット』

 ロミオはモンタギュー家の一人息子、ジュリエットはキャピュレット家の末娘です。両家は中世イタリアの都市ヴェローナの名門で、抗争を繰り返してきた仇敵です。

 キャピュレット家で開かれた仮面舞踏会の日、一悶着を起こそうと仲間と一緒に忍び込んだロミオはジュリエットに出会い、恋に落ちてしまいます。翌日、2人は密かに結婚をします。

 親友を殺されたことに激怒し、ジュリエットの従兄ティボルトをロミオが斬り殺してしまいます。ロミオは町から追放令を受け、キャピュレット家は刺客を送ります。この出来事は両家の抗争がまだ続くことを示唆しています。

 いくつかの不幸な行き違いの末、ジュリエットとロミオは共に自殺をしてしまいます。ジュリエットとロミオは若く、早すぎる死を迎えました。その結末に涙することで、仇敵だった両家はようやく和解への道を見つけることとなりました。

 これは、両家にとって最もかけがえのない存在を同時に犠牲にしなければならなかったという悲劇で終わっています。本を閉じた現実の世界でも、また果てしない抗争の世界が広がっています。

デフレはなぜ悪いのか

 技術進歩や規制緩和、貿易の自由化などによって一部の商品が安くなることを取り上げて「良いデフレ」と言われることがあります。

 技術進歩により、労働者一人当たりの生産性が年率5%で上昇しているとしましょう。この場合、企業は生産物の価格を賃金費用に比べて5%引き下げることができます。賃金が上がらなければ、価格を5%引き下げることが可能です。しかし、賃金が5%以上上がれば、価格を引き下げることはできず、この場合はデフレにはなりません。

 技術進歩とは、生産物の価格を労働力の価格である賃金に比べて相対的に安くするものです。

 本来のデフレとは、経済全体の需要が冷え込んで供給を下回ってしまうことで引き起こされる現象を指します。これにより、生産の縮小や雇用の削減が伴います。また、デフレは人々や企業が抱える負債(借金)の負担を重くし、商品の需要を一層冷え込ませ、深刻化させます。デフレは不況そのものを表しています。

インフレがシェイクスピアを生んだ

 J・M・ケインズはこう述べます。「シェイクスピアが登場した時、我が国はちょうど彼を養うだけの財政的基盤を持つことができたのである」

 英国では1560年にインフレが始まり1650年まで続きました。この資本主義的発展の時期と、シェイクスピアの活動時期が重なっているのです。

 賃金が1%下がり価格が3%下がるのは、モノの価格が下がるのでデフレです。貸し手が借り手に支出することを強いられると、支出性向が高い個人や企業の負担が増えます。借り手が返済を延滞し始めると、貸し手にとっては不良債権になってしまいます。さらに借り手が倒産すれば、債券は不良となり無価値になります。

 賃金が3%上がり価格が1%増えるのはインフレです。需要が生産を上回り、モノの価格が上がることができれば、負債の実質額を年々軽くすることができるでしょう。しかも好況は革新的な活動を促進する働きをします。わかりやすい例として挙げられるのは芸術活動です。シェイクスピアは資本主義とインフレの産物だったといえます。

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