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目次
書籍情報
自分は「底辺の人間」です
京都アニメーション放火殺人事件
京都新聞取材班
京都アニメーション放火殺人事件発生直後に、本社報道部社会担当を中心に取材班を発足させ、企画を展開している。
KODANSHA
- はじめに
- 第1章 暴走
- 現場近くの公園
- 惨劇
- 逃走
- 娘との対面
- 第 2章 喪失
- 愛されたアニメーターたち
- 涼宮ハルヒにそっくり
- 奪われた「未来」
- 『氷菓』に託した青春
- それぞれの名前
- 第3章 遺族
- メディアスクラムのなかで
- 風化への思い
- 実名か匿名か
- こんな息子がいたのだと
- 名前は誰のもの?
- 歳月の流れ
- 第4章 半生
- 初公判
- 「バオウ」と呼ばれた少年
- 離婚、そして貧困
- 青葉の青春
- 東京での夢
- 父の死、そして母との再会
- 真面目にやっても報われない
- 流転の日々
- 共鳴
- 紙一重の怖さ
- 第5章 執着
- 京アニとの出会い
- 「LOVEであります」
- ナンバー2
- 京アニ大賞
- 包丁を突きつけて
- 無差別殺人
- 京都への片道切符
- 犯行当日
- 宣告
- 連鎖
- 司法と福祉のはざまで
- 第6章 対峙
- 敬称の理由
- 自ら、被告人質問へ
- 11分間
- 湧き上がる不安
- 「申し訳ないと思います」
- 手紙
- 面会
- 叱ってくれる人
- 第7章 罪科
- 処罰感情
- 多様な胸中
- 償いのかたち
- 死刑囚の心
- 青葉からのメッセージ
- 控訴取り下げの理由
- 喪失の痛みを抱えて
- あとがき
書籍紹介
この本は、京都アニメーション第1スタジオで発生した放火事件を軸に、36人もの命が奪われた悲劇の背景や、その影響を丁寧に描き出しています。事件の被告である青葉真司が法廷で自らを「底辺の人間」と呼び、「底辺の論理」に基づいて犯行に至ったと語った言葉が、タイトルに強く反映されています。この言葉は、事件の核心に迫るだけでなく、社会の構造や個人の内面にまで目を向けるきっかけを与えてくれます。
本書は、京都新聞の取材班が6年間にわたり遺族や関係者に寄り添い、丹念な取材を重ねた成果です。地元紙ならではの視点で、事件の背景や犠牲者の人となりを丁寧に伝えつつ、被告の人物像にも光を当てています。特に、青葉被告が大やけどを負いながらも一命を取り留め、初公判までの4年間ほとんど情報が明かされなかった時期を経て、法廷で明らかになった彼の動機や思考が克明に描かれています。取材班は、事件を単なる犯罪の記録としてではなく、なぜこのような悲劇が起きたのか、どのように防ぐことができたのか、そして遺族の深い悲しみにどう向き合うべきかを問いかけます。
被告が自らを「底辺」と表現した背景には、就職氷河期世代や格差社会といった言葉が浮かび上がります。しかし、著者は安易にこれらの要因に事件を帰結させるのではなく、被告が選択した道や社会福祉制度との関わりにも目を向け、複雑な要因をバランスよく分析しています。事件を「社会のせい」にする単純な結論を避け、個人の責任と社会の役割の両方を丁寧に検証している点が印象的です。
事件の重さに圧倒されつつも、取材班の誠実な姿勢や、犠牲者への敬意が感じられる構成になっています。事件の全貌を知りたい方はもちろん、社会問題や人間の心理に興味がある方にも、深く考えさせられる一冊です。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
離婚、そして貧困

青葉が小学3年の時、両親が離婚しました。仕事で外出がちになった母に対し、父が浮気を疑うようになって、夫婦仲が冷え込んだことが原因だといいます。
母が家を出て、残された子ども3人は父が引き取りました。その父は、糖尿病が悪化して仕事を辞めざるを得なくなったようです。生活が困窮して給食費も払えなくなると、父は兄弟に厳しい体罰を加えるようになりました。冬に水をかけられる、ほうきの柄で寝ているところを起こしてくる、暴言を吐くなどです。
青葉は抵抗もしたようですが、体格で勝る父に対し従うしかなかったようです。3兄弟の中で、最も暴力を受けたのが青葉でした。
後年、 「ひとり親だからこそ、厳しくしつけないといけないと思った」と父はもらしていたようですが、その過酷なしつけで青葉は自己肯定感を壊していったのです。