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目次
書籍情報
満足できない脳
私たちが「もっと」を求める本当の理由
マイケル・イースター
ネバダ大学ラスベガス校の教授。
健康で充実した人生を送るために、現代の科学や進化の知恵をどのように利用すればよいか、執筆・講演している。
東洋経済新報社
- はじめに われらの欠乏脳
- イラクでのドラッグの広がりについての取材旅行
- 人間はより多くを渇望し、消費するように進化した
- ものにあふれた現代の世界では欠乏脳が問題を起こす
- 欠乏脳を理解し、解決策を見つけるための旅
- 第1章 欠乏ループ
- スロットマシンはなぜ人を夢中にさせるのか?
- ラスベガスのカジノ研究所
- 不人気だったスロットマシン
- スロットマシンに革命をもたらした男
- 「欠乏ループ」の3つの段階
- やめられないのは楽しいから
- 第2章 予測不可能な報酬とドーパミンの放出
- ハトをギャンブラーに変える実験
- 類の祖先のギャンブルのような食べ物探し
- ドーパミンの重要な役割
- 第3章 いたるところに組み込まれた欠乏ループ
- 欠乏ループはどこにでも存在している
- SNS
- Eメール
- ショッピング
- パーソナルファイナンス
- モバイル賭博
- テレビ
- 健康
- デート
- ビデオゲーム
- ギグワーク
- ニュース
- テクノロジーは規制されるべきか?
- 第4章 脳は「多い」のが大好き
- 欲望や執着は私たちを苦しめる
- 人間は引くことより足すことを好む
- 「進化上の不一致」という問題
- 消費すればそれだけ飢えが大きくなる
- ハトも人間も退屈すると刺激を求めるようになる
- 第5章 薬物依存と環境
- イラクの精神医学者との会談
- イラクで広まったカプタゴンという覚せい剤
- なぜ薬物使用が増加したのか
- 薬物使用の進化的ルーツ
- 依存症に対する2つの考え方
- 依存症は脳疾患ではなく克服できるもの
- 依存症と欠乏ループの関係
- 退屈や不安からの透過
- 逃避行動が習慣化される
- 変化を起こすことで回復する
- 欠乏ループを用いたテクノロジー
- 第6章 ゲーム化や数値化の害悪
- ゲーミフィケーションに対する逆張り的な思想家
- 「いいね!」によるモチベーション・システムの掌握
- ゲームを機能させる「ポイントシステム」
- 混沌とした現代の生活からの逃避
- 世界を「ゲーム化」すべきか
- ワインのスコアリングにおける問題
- ゲーミフィケーションと定量化のマイナス面
- 定量化が変える私たちの行動や経験
- 第7章 影響力と地位、承認欲求
- 他人に影響を与えたいという衝動
- 物議をかもしたマズローの四番目の欲求
- 私たちはみな社会的地位を気にする
- 欠乏脳は影響力を欲しがる
- プライドの二つのタイプとSNSの影響
- 影響力への欲求がもたらす数々の認知バイアス
- 「欲しいのは正しさなのか、幸福なのか?」
- 第8章 加工食品とダイエット
- 食べ物の欠乏ループとチマネ族の知恵
- アマゾンの奥深くへの旅
- 私たちの命を奪っている心血管疾患
- 若々しさを保つチマネ族の食事
- 炭水化物たっぷりのつまらない食べ物
- 人類が主食としてきたもの
- 食品の加工という食糧革命
- 超加工食品が肥満をもたらした
- なぜ食べ過ぎてしまうのか
- 失われつつある伝統的な食事
- チマネ族ふうの食生活がもたらした健康な体と高い集中力
- 肝心なのは継続可能な方法であるかどうか
- 第9章 衝動買いとモノを買いたいという強迫観念
- モンタの荒野へ
- ゼラが旅を始めた理由
- なぜ買いすぎるのか
- 人間が物質的な動を好む3つの理由
- 産業革命によってあらゆるものが増加した
- 強迫性質と欠乏
- 豊かさに伴う問題
- ゼラが「落ち角拾い」を好む理由
- 不足が創造性をもたらす
- 苦難を乗り越えてこそ喜びがある
- 過剰なため込みもミニマリズムも一種の完璧主義
- 「モノではなく装備」と考える
- 第10章 冒険心と情報への渇望
- 宇宙飛行士との対話
- 人間が冒険家になるまでの道のり
- ヒトはとくに冒険心が強い
- 欠乏脳は情報を渇望する
- 未開の地を冒険したいという欲望
- かつてないほど大量の情報を手に入れられる現代人
- 情報過多の問題点
- 「オンライン脳」という現象
- 「何かがわかった」という心地良い体験の罠
- オンラインレビューという諸刃の剣
- 『ポケモンGO』がヒットした理由
- 欠乏ループを豊かさのループに変える
- 困難な探求の旅が人生を豊かにする
- 第11章 仕事と幸福
- 修道院での生活と幸福の研究
- 社会から隔絶された静寂の中での暮らし
- 人はずっと幸福を感じるようにはできていない?
- ベネディクトが修道院を設立するまでの道のり
- 朝の祈りとコーヒー
- 修道院における労働
- 仕事の意味と沈黙の価値
- 時間と注意を能動的に使う
- 宗教と科学の役割
- 祈りから得られるもの
- 何が幸福をもたらすのか?
- 自らの選択によって人は幸福になれる
- 孤独がもたらす創造力や豊かな経験
- 幸福とは長く厳しい努力の中で得られるもの
- エピローグ いま私たちは何をするのか
- 過酷な環境の中で得られる生きる喜び
- 欠乏ループから抜け出す
書籍紹介
この本は、現代社会で私たちがなぜ「もっと」を追い求めてしまうのか、その背景にある人間の脳と進化のメカニズムを鮮やかに解き明かします。科学ジャーナリストであり、ネバダ大学ラスベガス校の教授でもあるイースター氏は、現代の科学と進化の知恵を駆使して、私たちの行動や欲望がどこから来るのかを丁寧に紐解いていきます。
本書では、買い物依存や過食、スマートフォンに費やす過剰な時間といった、現代人にありがちな「やめられない」行動の原因を、進化心理学の視点から探ります。イースター氏は、これらの行動が「欠乏ループ」と呼ばれる脳の仕組みに根ざしていると指摘します。かつて人類が生き延びるために必要だった「もっと求める」本能が、現代の豊かで刺激に満ちた環境では、かえって私たちを不健全な習慣に駆り立てるというのです。たとえば、スマートフォンの通知やスロットマシンのような予測不可能な報酬システムが、私たちの脳を刺激し、際限なく「次の何か」を追い求めさせると説明されています。この分析は、日常の何気ない行動が、実は深い進化的な背景に支えられていることを気づかせてくれます。
過剰消費やSNS依存といった現代の問題を、自身の経験や具体的なエピソードを通じて描写することで、読者は自分自身の生活を振り返るきっかけを得ます。また、イースター氏が提唱する「文明化された退屈な人生」からの脱却方法は、単なる自己啓発の枠を超え、実際に生活を変えるための実践的なヒントとなるでしょう。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
欠乏ループ

ギャンブル、過食、過剰な買い物、スマホ依存など、私たちが矢継ぎ早に繰り返してしまう行動は「欠乏ループ」によって引き起こされています。この欠乏ループは3部構成です。
1.機会 → 2.予測不可能な報酬 → 3.迅速な再現性
そのまま10ドルをもらうか、抽選くじを引いて当たりがでたら30ドルかの選択をすると、くじを引く選択をする人が多いことは知られています。この予測不可能な報酬を繰り返し演出することで、改良型のスロットマシンは収益を10倍以上にあげることができました。
可能性が残されているから席を立てず、予測不可能なチャンスを演出されればときめき、すぐにコインを入れればリールを回して抽選できるといった具合です。
毎回ではなくても報酬を受け取ると、私たちはそれを望むかぎり存分に繰り返してしまいます。
不足が創造性をもたらす

イリノイ大学とジョンズ・ホプキンズ大学の科学者たちは、資源が手に入る環境では、勝って問題を解決をすることが当たり前になってしまい、それによって問題を解決する能力に弊害が出ているという。
とある実験では、資源が不足していると伝えたグループと、資源は豊富にあると伝えたグループで、問題解決能力がどう変化するのかを調査しています。結果は、全ての各課題に対して、資源が不足していると伝えたグループが良い結果を出したようです。
物が豊富にあると、どんな問題も物をたくさん使って解決しようとしてしまいます。あるいは、何かを買い足してまで問題解決のために他の道具を求めたりします。宣伝された通りにアイテムを仕様する傾向が高くなるのです。
欠乏ループを豊かさのループに変える

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの科学者たちは、『ポケモンGO』の普及がうつ病の割合にどう影響したかを調査しました。
『ポケモンGO』のおかげで50キログラムも痩せたとか、精神状態を改善できたとか、新しい友達ができたとかの声を頻繁に聞いた時期がありました。『ポケモンGO』が健康的なことをするためのナッジとして活用することもできたのです。
インターネットと消費向けの技術は、油断ならないほど強力な欠乏ループ装置です。そこにAIが搭載されたことで、ユーザーが「もっと、もっと」とクリックやスクロールを繰り返します。そのうち、今より依存性の高いアプリが現れるでしょう。その欠乏ループに気づき、豊かさのループに変えるのは、結局のところ自分自身です。