Newton 2024年6月号

発売日 2024年6月7日

ページ数 144p

ISSN 0286-0651

もくじ

  • FOCUS
    • 超新星爆発の残骸から中性子星を発見
    • 3Dプリンターで人口脳がつくられた
    • グラフェン分子中の電子の奇妙な挙動
    • 1万年前のチューインガム
    • 物体に入った亀裂が広がるしくみ
    • 火星が地球におよぼす意外な影響
    • ブラックホールの渦巻く磁場を撮影
    • コウモリが外敵を察知するしくみ
    • 月面で水素と酸素をつくる装置
    • イモリの超再生力
    • 台湾東部を襲った大地震
    • 海底に鬼界カルデラの噴出物を発見
  • FOCUS Plus
    • 医学 感染力最強の感染症「はしか」が世界的に流行中
  • 第1特集 Newton Special
    • 実は謎だらけ 地球大解剖
  • 物理学
    • 熱電変換の物理学
  • 古生物学
    • 世界一美しい化石図鑑
  • 第2特集 Newton Special
    • 何が正しいかを合理的に考える 科学と倫理の交差点
  • 生物学
    • 猛毒のサイエンス
  • 天文学
    • 銀河百景
  • 連載 数式いらずの数学入門
    • 曲線の不思議 私たちの身のまわりには美しい曲線があふれている
  • Nature View
    • 極北の自然は今

Focus

3Dプリンターで人工脳がつくられた

ジャンル:医学

出典 3D bioprinting of human neural tissues with functional connectivity

Cell Stem Cell, 2024.2.1

 近年「3Dバイオプリンター」を使って、細胞を3次元的に決まった位置に配置し、立体的な人工臓器をつくる研究が注目されています。

 これまでインクに使われていたハイドロゲルの中では神経細胞が十分に成長できないため、神経細胞どうしが機能的につながった構造まではつくれませんでした。

 アメリカ、ウィスコンシン大学マディソン校のヤン博士らは、3Dバイオプリンターのインクとしてフィブリンでできたハイドロゲルを用いました。フィブリンは、ヒトの身体にも含まれる繊維状のタンパク質です。できあがった3次元の脳構造の中で神経細胞は機能的なネットワークをつくりあげていました。グリア細胞が神経細胞の活動を助けるようすも観測されています。

 今回開発された方法で、神経細胞ネットワークの機能や疾患のしくみを明らかにすることができるかもしれません。

1万年前のチューインガム

ジャンル:人類学

出典 Metagenomic analysis of Mesolithic chewed pitch reveals poor oral health among stone age individuals

Scientific Reports, 2024.1.18

 北欧のスカンディナビア半島では、約1万6000年前ごろから狩猟採集の生活が始まりました。当時の人々の暮らしはよくわかっていません。

 近年発覚したのは、樹脂をかんだ跡が残っていることです。現代の「ガム」のようにかまれた可能性があり、樹脂の分析によって当時の健康状態や食生活を観測できます。

 トルコ、メルシン大学のクルドゥク博士らは、スウェーデンの遺跡で見つかった約1万年前のガムに含まれている微生物のDNA解析を行いました。

 表面に残された歯形から20歳未満の若者がかんでいたことが推定されます。分析の結果、若者の口の中では歯周病に関連する病原菌が増えていたことがわかったのです。

月面で水素と酸素をつくる装置

ジャンル:宇宙開発

出典 高砂熱学工業株式会社ニュースリリース

2024.3.18

 日本の民間企業、高砂熱学工業株式会社は、月面での使用を想定した小型の水電解装置を世界ではじめて開発しました。

 この装置は、2024年の冬に予定されている日本の民間企業ispace社の月探査計画「HAKUTO-R」のミッション2の月着陸船に搭載される予定です。

 月面用の水電解装置は、水を電気分解する機器や、水と酸素、水素をそれぞれためておくタンクなどで構成されます。装置は、ロケットの打ち上げや月面着陸の際にかかる強い衝撃に耐えられるように、強固な構造になっています。

 今回は、必要な水は地球から持参し、月着陸船が太陽光を発電して電気を得ます。運転などは地球からの遠隔操作によって行われる予定です。世界初となる月面での水電解の成功が期待されます。

Focus Plus はしかが世界的に流行中

ジャンル:医学
監修:中山哲夫 北里大学大村智記念研究所名誉教授
執筆者:山本尚恵

一人から十人にうつる最強の感染症

 はしかは、感染力が非常に強い感染症として知られています。新型コロナやインフルエンザと同じ飛沫感染、接触感染のほかに、空気感染でも伝播します。 

 日本でも2024年3月、はしかの感染者が新幹線に乗車していたことが報告されています。仮に車両の中の席に座っていた場合、新型コロナやインフルエンザならば感染リスクが高いのは感染者から1~2メートル以内に限定されます。しかし、はしかの場合は車両にいるすべての人に感染リスクが生じます。マスクをしていても感染を防ぐことは難しいでしょう。

ワクチン接種が唯一にして最善のはしか対策

 はしかの主な症状は発熱やせきなどで、通常のかぜやほかの感染症と変わりません。発熱は2日ほどたつといったん下がるものの、ふたたび体温が40℃近くまで上昇し、さらに1週間ほどつづきます。数日経つと、体に発疹が出始めるのです。

 麻疹ウイルスは、2週間程度の潜伏期間があり、発症する4日ほど前から感染力をもつウイルスが排出されます。発症したとくは、まわりの人はすでにウイルスに暴露されており、時すでに遅しです。

 未接種または1回しか摂取していない人でも、通算2回となるようにワクチンを接種すれば、これからでも十分な免疫を獲得できます。一人ひとりが2回のワクチン接種を徹底することが、はしかの流行拡大を防ぐ、唯一にして最善の対策といえるでしょう。

猛毒のサイエンス

監修:船山信次
執筆者:梶原洵子

AIは最強の毒を生み出してしまうのか

 AIの活用が進み、強力な毒の発見や悪用の可能性に対する懸念も表れています。民間企業であるCollaborations Pharmaceuticalsの研究者、ウルビナ博士は2022年に、新薬候補となる化学物質の毒性を予測するAIモデルを用いて、わずか6時間で4万種類以上の有毒物質の構造を導き出したという研究成果を発表しました。

 この研究の恐ろしい点は、プログラミングや機械学習のスキルを持つ者であれば、一般公開されている毒性データベースや無料で閲覧できる生成モデルを用いて、容易に新しい有毒分子を見つけ出せることです。

 船山客員教授は、AIが微生物の毒を上回る最強の毒を創り出すことができるかどうかは難しい問題だと述べています。AIは既存の情報を基に化学構造を予測することしかできません。

 微生物は予測不能な物質を生み出しますが、特に強力な毒を持つ生物は複雑な大きな分子を持ちます。たとえば、熱帯の海水魚に見られる「パリトキシン」という毒は、129個の炭素原子から構成される複雑な毒として知られています。分子量が大きいほど、AIが予測しなければならない化学構造のパターンも増え、その結果、予測には時間がかかるでしょう。

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