※ 毎朝、5分以内で読める書籍の紹介記事を公開します。
目次
書籍情報
創元ビジュアル教養+α
タコ・イカが見ている世界
吉田真明
島根大学生物資源科学部付属生物資源教育センター海洋生物化学部門、部門長、教授。理学博士。
学生時代からタコ・イカ類を中心とした軟体動物の研究を進めている。
滋野修一
バイオメディカル企業勤務。
情報学や脳科学を専門とする。
頭足類の研究を続けて30年経とうとしている。
創元社
- はじめに
- 1章 殻を捨てた不思議な生き物たち
- タコやイカの心の中
- タコ・イカの社会と知性
- 恋するタコ・イカ
- 不思議な体と知性を持つ頭足類
- 海のパフォーマーたちの複雑な体
- 世界中に棲む多様な頭足類
- タコの奇妙な「頭」
- 「外套」を着ている頭足類
- 頭足類の起源、オウムガ
- 頭足類の卵
- オウムガイの脚の謎
- 貝殻を捨てたタコとイカ
- タコとイカに残る貝殻の痕跡
- 殻を2度作ったカイダコ
- 甲を持つコウイカ
- 頭足類の3つの心臓
- 日本で愛されるメンダコ
- イカの年齢を知る方法
- 9つの脳を持つタコ
- 無名研究者の大発見
- 恐竜より太い神経を持つイカ
- 3.5mの巨大な脳
- イカは光って身を隠す
- イカはどうやって光るのか
- 発光バクテリアとの共生
- 吸盤で獲物を味わう
- column タコ・イカ大国、日本
- 2章 頭足類の知能とは?
- タコ・イカの
- 心と知性
- タコにもヒトにもある「知性の階層」
- 学び続ける頭足類
- 酔い、麻酔され、眠る
- タコは痛みを覚えている
- ドラッグで興奮するタコ
- タコに愛情はあるか?
- ヒトとは大きく異なる頭足類の脳
- 似ている脳、似ていない遺伝子
- 知能は段階的に生まれる
- 体と脳の情報ル眼と体が繋がる知性
- 脳からわかる知性のあり方
- タコは自分の体をイメージしているか?
- タコの「ニーモン」とチューリング機械
- ChatGPTによく似たタコの脳
- column ヒトの心と頭足類の心
- 3章 生命の設計図を書き換える
- 生命の設計図であるゲノム
- ゲノム解読にはどういう意味があるのか
- タコの知性に目をつけたノーベル賞受賞者
- ゲノムサイズの謎
- タコの知性の秘密をゲノムから探る
- 複雑な脳を作るプロトカドヘリン
- タコはエイリアンなのか問題
- 頭足類の複雑な眼はどう進化したか
- タコの世界ではオスが基本
- タコはRNAを「編集」できる
- 遺伝子の「仕様」を変えてしまうRNA編集
- RNA編集で再び注目される頭足類
- 応用が期待されるRNA編集技術
- column タコ養殖の最前線
- 4章 頭足類と人類
- 生命科学の発展を支えた頭足類研究
- 古代ギリシアのタコの抽象画
- 頭足類を研究したアリストテレス
- プリニウスが記録した謎の巨大タコ
- 科学的な頭足類研究の始祖、ダ・ヴィンチ
- 神が創造した頭足類の体
- 全生物に共通の「プラン」はあるのか
- 「下等生物」からヒトへの道のりを描いたラマルク
- オウムガイ研究の金字塔を打ち立てたオーウェン 現代頭足類学の発祥の地
- 自然から学べ、本からではなく。
- あとがき
書籍紹介
この本は、タコやイカといった頭足類の驚くべき知能と感覚の世界に深く迫る科学読み物で、専門的な知識がなくても楽しめるようにわかりやすく書かれています。
タコやイカがどのように世界を「見ている」のか、その独特な視覚や環境への適応力が丁寧に解説されています。彼らの目が持つ構造や色の認識の仕組み、そして驚異的な擬態能力について、最新の科学研究をもとに紐解いていきます。特に、タコが周囲の環境に瞬時に溶け込む様子や、イカが光を操るように体色を変化させる姿は、まるで自然の魔法のようです。こうした能力が、どのように進化してきたのか、その背景にある生態や脳の働きにも触れられ、読み進めるほどに頭足類の奥深い世界に引き込まれます。
タコが瓶の蓋を開けるような問題解決能力や、イカが仲間とコミュニケーションをとる様子は、私たちが普段抱く「単純な海の生き物」というイメージを覆します。これらのエピソードは、ユーモアを交えた軽快な文体で描かれており、科学的な内容ながら親しみやすく、まるで物語を読むような楽しさがあります。
人間と頭足類の違いを通じて、私たち自身の「見る」行為や意識について考えさせるところです。タコやイカの視点から世界を想像することで、普段気づかない自然の多様性や生命の不思議に目を向けられるようになります。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
タコはRNAを編集できる

生物の体はタンパク質で作られており、その設計図はDNAです。DNAからいきなりタンパク質が作られるわけではなく、途中でRNAと呼ばれる物質を介してタンパク質ができます。
南極のタコに、浅海性のタコは20度前後の水温に暮らしているが、南海の海底に住むタコには年間を通してマイナス1.8度の水温息で生活しているものがいます。どのように体温調節をしているのでしょうか。
神経で働く「遅延整流カリウムチャネル遺伝子」の仕事は、カリウムという物質を使って電気をながし、低温だと運動が鈍るというものです。ということは、動きが悪くならないように、南極のタコの遺伝子は改造が必要なはずなのです。
しかし、南極のタコと暑いところにいる熱帯のタコとでは、カリウムチャネル遺伝子のDNAにはほとんど変化がありません。そこで調べたところ、タコでは一部のRNAが「編集」され、異なるカリウムチャンネルタンパクを生み出せることを発見しました。
DNAを写しとった「仕様書」がRNAであり、その仕様書を元にタンパク質をつくるわけです。その仕様書を変更して、カリウムが通る穴を開き冷たい水域に対していました。
RNA編集自体はタコに特有の現象ではありません。人も一部の神経細胞では行われています。しかし、タコがユニークなのは、RNA編集が全遺伝子の60%以上に及ぶことです。