※ 毎朝、5分以内で読める書籍の紹介記事を公開します。
目次
書籍情報
もうすぐ絶滅するという煙草について
筑摩書房
- Ⅰ
- たばこすふ煙の垂るる夜長かな 芥川龍之介
- 人生は煙とともに 開高健
- 血縁者の受難 中島らも
- タバコと私 遠藤周作
- けむりの行衛
- 煙草 松浦寿輝
- 「文士と酒、煙草」夏目漱石
- 煙草の人たち 久世光彦
- 仕事終わりに髪からたばこの香りが鼻をかすめるこの人生も気に入っている ヒコロヒー
- ぼくのtばこ 荒川洋治
- 喫煙者にとってもひっ喫煙者にとってもうれしいタバコ 米原万里
- 乞食時代 吉田健一
- たばことライター 佐藤春夫
- 我が苦闘時代のたばこ 赤塚不二夫
- 煙草あれこれ(抄) 丸山薫
- パイプ 杉本秀太朗
- パイプ礼讃 澁澤龍彦
- パイプの話 安西水丸
- 憧れのパイプ、憧れの煙管 あさのあつこ
- 色里の夢は煙草か 杉浦日向子
- 葉タバコの記憶 安岡章太郎
- 煙草ぎらひ 堀口大學
- Ⅱ
- 煙草の害について 谷川俊太郎
- 嫌煙 なぎら健壱
- けむたい話 山田風太郎
- たばこ 常盤新平
- 喫煙 別役実
- たばこ規制に考える 池田晶子
- 喫煙の起源について。 内田樹
- 煙管の雨がやむろき 柳谷喬太郎
- Ⅲ
- タバコをやめる方法 安倍公房
- 禁煙の快楽 島田雅彦
- 非喫煙ビギナーの弁 東海林さだお
- 禁煙免許皆伝 古田島雄志
- 煙草との別れ、酒との別れ(抄) 中井久夫
- 禁烟 斎藤茂吉
- タバコと未練 赤瀬川原平
- 元煙草部 いしいしんじ
- 煙歴七十年 内田百閒
- ののちゃん 7218 いしいひさいち
- 時の流れとタバコと 三國連太郎
書籍紹介
この本は、現代社会でますます肩身の狭い存在となりつつある煙草をテーマに、40名もの多彩な執筆者がそれぞれの視点から煙草との関わりを綴ったアンソロジーです。谷川俊太郎、池田晶子、いしいしんじ、三國連太郎、高峰秀子、あさのあつこといった名だたる作家や文化人たちが登場し、煙草への愛着や郷愁、禁煙への葛藤やユーモアを交えたエピソードを披露しています。2025年5月にちくま文庫として刊行され、装丁も煙草のパッケージを思わせる遊び心のあるデザインで、読者の目を引きます。
谷川俊太郎は「煙草の害について」と題したエッセイで、煙草と社会の関係を軽妙に考察しつつ、自身の喫煙体験を詩的な感性で描きます。一方、安部公房は「タバコをやめる方法」で、禁煙への試みを独特のユーモアと皮肉を交えて語り、読者にクスリと笑える瞬間を提供します。筒井康隆の痛快な語り口も印象的で、煙草をめぐる個人的なエピソードが、まるで一服の煙のようにゆらゆらと心に残ります。こうした多様な声が織りなす本書は、煙草を愛好する人だけでなく、煙草に特別な思い入れがない人にとっても、どこか懐かしく人間味あふれる物語として響きます。
本書は、煙草そのものを賛美するわけではありません。現代の禁煙ムードや健康志向の高まりを背景に、喫煙者が「絶滅危惧種」ともいえる存在になりつつあることを自嘲気味に認めつつ、煙草がかつて担っていた文化や個人の記憶の一部を愛おしむような視線が貫かれています。開高健の「人生は煙とともに」に始まり、さまざまな執筆者が煙草を通じて感じた刹那の喜びや人生の機微を綴ることで、読者は煙草が単なる嗜好品以上の意味を持っていた時代に思いを馳せます。煙草を手に持つ仕草、紫煙が漂う部屋の雰囲気、喫煙所での何気ない会話、そんなささやかな瞬間が、実は多くの人にとって人生の大切な一コマだったのかもしれません。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
うれしいタバコ

1日に60本のタバコを吸っていた父は、主治医から「せめて、1日20本にできませんか」と言われていました。
「なんで父ちゃん、タバコ吸ってるの?」
「それはね、父ちゃんの頭が良すぎて、周囲とあわせるためにブレーキをかけなくちゃならないからだ。脳細胞の動きを緩慢にすることで、ちょうどよくなるんだよ」
そんな父を反面教師にして、私はタバコを吸っていません。今の時代に、わざわざ肩身の狭い喫煙者を選ばなくてもいいと思っています。
世界で最初に熱心に禁煙運動に取り組んだのは、ヒトラーとナチスでしたが、彼らは喫煙者です。彼らにだって、他人の吐き出したタバコの煙を吸い込むという義理はありません。
そこで、煙の立たない加熱式のタバコが出てきました。喫煙者にとっても、全く吸えなくてイライラするより良いでしょう。灰も灰皿もないのは、スッキリしていい、寝タバコによる火事の心配もいりません。
そもそも、タバコで有害なのはタールや、タバコに巻かれている紙です。ニコチンだけ嗜好できるのは、喫煙者の健康のためにも、ちょっとだけいいかもしれません。