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目次
書籍情報
《現代史アーカイヴス》
アメリカを変えた夏 1927年
ビル・ブライソン
ノンフィクション作家。
言語や紀行、アウトドア、科学など幅広いテーマで数々のベストセラーを出している。
白水社
- プロローグ
- 5月 ザ・キッド
- 第1章
- 第2章
- 第3章
- 第4章
- 第5章
- 第6章
- 第7章
- 6月 ザ・ベーブ
- 第8章
- 第9章
- 第10章
- 第11章
- 第12章
- 第13章
- 7月 大統領
- 第14章
- 第15章
- 第16章
- 第17章
- 第18章
- 第19章
- 8月 無政府主義者たち
- 第20章
- 第21章
- 第22章
- 第23章
- 第24章
- 第25章
- 9月 夏の終わり
- 第26章
- 第27章
- 第28章
- 第29章
- 第30章
- 原注
- 謝辞
- 訳者あとがき
- 解説(白岩英樹)
- 写真クレジット
- 出典に関する注と読書案内
- 人名索引
書籍紹介
この作品は、1927年のアメリカを舞台に、激動の時代を象徴する出来事や人々の姿を生き生きと描き出します。ブライソンの筆は、単なる歴史の記録を超え、当時の文化や社会の息吹を読者に感じさせる力を持っています。
この本の中心にあるのは、1927年という年がアメリカに与えた深い影響です。チャールズ・リンドバーグの大西洋単独飛行は、人々の想像力を掻き立て、航空時代への扉を開きました。同時に、ベーブ・ルースのホームラン記録や、映画『ジャズ・シンガー』の公開は、スポーツとエンターテインメントの新たな時代を告げました。ブライソンはこうした出来事を丁寧に織り交ぜながら、経済の繁栄とその裏に潜む不安定さ、さらには社会の変容を浮き彫りにします。禁酒法の下で暗躍するギャングや、メディアの台頭も、当時のアメリカの複雑な姿を映し出しています。
リンドバーグの飛行の緊張感や、ルースの豪快なスイングの場面では、その場にいるかのような臨場感があります。また、当時の人々の暮らしや価値観を丁寧に描写することで、現代の私たちにも共感を呼び起こします。たとえば、ラジオが家庭に普及し、人々が新しい情報に触れる喜びや、都市と地方の文化のギャップなど、細やかなエピソードが本書をより魅力的にしています。
歴史に興味がある方はもちろん、物語として楽しみたい方にもおすすめです。1927年のアメリカは、繁栄と変革の頂点にありながら、後に訪れる大恐慌の影も垣間見えます。ブライソンはその両方の側面をバランスよく描き、読者に歴史の多面性を考えさせます。ブライソンの魅力は、ユーモアと洞察に満ちた語り口にあります。歴史的な事実を淡々と並べるのではなく、まるで物語を聞いているかのように読者を引き込みます。
試し読み
※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。
ザ・キッド

1920年代は何よりも新聞の黄金期でした。有名なゴシップ紙として有名だったのは、大衆タブロイド紙です。アルバート・スナイダーの殺人のような、地味だがふしだらな事件が全国的なニュースになったのもこの日刊紙の影響です。アメリカの人々が全般的に活字を読んだ時代は他にありません。
偶然にも、スナイダー事件が終息に向かっていたとき、スピリット・オブ・セント・ルイス号と名乗る銀色に加賀安飛行機が西からロングアイランドへ飛来して、ローズヴェルト飛行場に隣接するカーティス飛行場に舞い降りました。
25歳のチャールズ・リンドバーグは18歳に見えました。身長は189センチ、体重58キロ。絵にかいたように健康そのもので、酒もたばこもやらなければ、コーヒーやコーラも飲みません。女性とデートしたこともなく、墜落寸前の飛行機から何度もパラシュートで脱出に成功したことを自慢する人物です。
この中西部出身の青年こそが、次なる話題の主役であるように見えました。報道関係者の間に疑問が駆け抜ける。このキッドはいったい何者だ?