虫を描く女/著者:中野京子

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書籍情報

タイトル

虫を描く女

「昆虫学の先駆」マリア・メーリアンの生涯

発刊 2025年4月10日

ISBN 978-4-14-088742-4

総ページ数 254p

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出版社リンク NHK出版

著者

中野京子

作家・ドイツ文学者。

出版

NHK出版

もくじ

  • はじめに
  • 第一章 フランクフルト時代(~18歳)小さき虫に神が宿る
    • 「わたしが世を去っても・・・・・・」
    • フランクフルト一の大出版社、メーリアン出版工房
    • 『家族像』のよけいなふたり
    • マテウスの決断
    • 「大したことない画家」マレル
    • 孤独な少女が虫と出会って
    • 世界は驚異に満ちている
    • 生涯の仕事
    • メタモルフォーゼの発見
    • 人生の目標を定める
  • 第二章 ニュルンベルク時代(~33歳)科学と芸術の幸福な融合:
    • 一八歳の花嫁
    • すれちがう夫婦
    • 処女画集『花の本」
    • 肖像画の女性はマリア・シビラか?
    • 野ネズミの死骸と魔女裁判と
    • ふたりの娘の母になる
    • 「イモ虫の驚異的変態とその風変わりな食草』
    • 科学が芸術に奉仕すべき
    • 運命は曲がりはじめる
  • 第三章 オランダ時代(〜5歳)繭の中で変化は起こる
    • かけこみ寺
    • 〈光の子〉として
    • グラフの誤算
    • 繭の中で変化は起こる
    • 現れる矛盾、旅立ちのとき
    • メタモルフォーゼ
    • アムステルダム新生活
    • 芸術が競われた時代に
    • ひろがる交友関係
  • 第四章 スリナム時代(〜5歳)悦びの出帆
    • 「待つのは良薬」
    • 五二歳の出帆
    • 奴隷付き住居での生活
    • ジャングルでのフィールドワーク
    • ハチドリを襲うオオツチグモ
    • マラリアとの闘い、そして生還
  • 第五章 アムステルダムでの晩年(~6歳)不屈の魂は何度も甦える
    • 一大センセーション
    • ぴりぴりした予感
    • 『スリナム産昆虫変態図譜』
    • むせかえる熱帯のエネルギー
    • さまざまな訪問者たち
    • 最後の肖像画
    • 死、それから
  • あとがき
  • 復刊に際してのあとがき

書籍紹介

 この本は、17世紀に活躍した女性画家であり昆虫学者でもあるマリア・シビラ・メーリアンの波乱に満ちた人生を、生き生きと描き出しています。中野京子さんの鋭い洞察力と流麗な筆致が、科学と芸術が交錯する時代背景とともに、メーリアンの情熱と偉業を鮮やかに浮かび上がらせます。

 当時、昆虫学という学問は存在せず、虫は腐敗物から自然発生すると信じられていました。そんな時代に、彼女は独学で昆虫の変態を観察し、その美しくも神秘的な姿を精緻な絵で表現しました。ニュルンベルク、オランダ、そして遠く南米のスリナムへと旅を続ける彼女の人生は、単なる画家の枠を超え、探求者としての強い意志に満ちています。特に、50歳を過ぎて単身スリナムへ渡り、未知の動植物を記録した冒険心は、読む者の心を強く打ちます。

 彼女がどのようにして「神の宿る小さな虫」に魅せられ、近代科学の夜明けに貢献したかを丁寧に紐解きます。2002年に刊行された『情熱の女流「昆虫画家」』の復刊となる本書は、現代の視点で再編集され、新たな読者にその魅力を伝えています。科学と芸術の融合、そして女性としての不屈の精神が、ページをめくるたびに感じられるでしょう。

試し読み

※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。

野ネズミの死骸と魔女裁判と

 マリア・シビラは主婦であり、芸術活動をする上でも「通常の家事をきちんとこなしたうえで」と強調しなければならなかった時代です。女性は家事をするものという世間の圧力が強まっていました。女性は大学へ行けなかったため、ラテン語が学べなかったので学問の道が閉ざされていたのです。

 マリア・シビラは『花の本』により、芸術活動が評価され始めていました。そのため、貴族の娘と一緒に、特別講座の出席を許されていたのです。彼女はそこでラテン語や博物学を学んでいます。この頃は自然科学の分野は学問だと認知されていません。アマチュア自然研究家は、独自に研究するよりなかったのです。

 マリア・シビラの研究熱心さのエピソードは、近所の住人が残してくれています。道端で見つけた野ネズミの死骸を持ち帰り、皿に入れて居間の床に放置したといいます。蛆がどのくらいで羽化するのかを自然な状態で観察するためだったといいます。夫のグラフも嫌だったでしょう。彼女は研究に憑りつかれたようだったといいます。玄関前の地面を掘りかえして虫を捜したり、拡大鏡を手にそのあたりを這いずりまわったり、市壁の外まで網を片手に出かける変人ぶりです。

 畑に害虫が大量発生したときに、神罰がくだったのではないだろうかと市民が騒ぎたてたことがありました。マリア・シビラは、「迷信にすぎない」とくだらないと言い捨てたのです。虫が増えれば果物や野菜に被害がでるのは当たり前であり、どんなイモ虫も成虫が交尾してできたものだと堂々と語っています。魔女裁判が下火になったとはいえ、魔女と名指しされてしまいました。

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