もくじ
- プーチン後のロシア
- 「より良いロシアへの道」は存在するか
- 未来ビジョンを巡る米中衝突
- どちらの見方が正しいのか
- 米中、どちらを選ぶのか
- 大国間競争と世界
- いかに経済的繁栄を共有するか
- ベーシックインカム、社会保障の強化
- グローバル化の改善と再設計を
- 貿易が依然として必要な理由
- 米中経済関係のリアリティ
- ディリスキングと変化しない現実
- ワグネル反乱の真の教訓
- なぜ治安組織は動かなかった
- プーチン時代の終わりの始まり
- 反乱が暴きだした問題の本質
- 戦後も続くゼレンスキーの戦い
- ウクライナの民主主義を考える
- ミャンマーは米中冷戦の最前線なのか
- 内戦と米中の立場
目次
プーチン後のロシア
監修
UnsplashのAleksandr Popovが撮影した写真
戦争とプーチンの権力
3月にウォール・ストリート・ジャーナル紙の記者、エバン・ガーシュコビッチが不当に拘束され、4月に政治活家のウラジミール・カラムルザに懲役25年の判決が下されたことは、ソビエト時代のやり方を彷彿とさせます。
プーチンが政権を握っている限り、欧米とロシアの関係が変わらないとすれば、彼が退陣すれば事態は好転するのかもしれません。しかし、長年の権威主義的指導者が退陣した後の政治的変化の記録をみれば、状況は楽観できないのです。権威指導体制は、多くの場合、長年の指導者が去った後も存続します。
独裁体制は踏襲される
ロシアのウクライナ戦争はプーチンをとりまく環境をほとんど変化させません。権力の掌握はむしろ強化され、戦闘が続く限りは堅個であり続けるでしょう。世論調査では、プーチンの支持率は進行開始後10ポイント上昇しています。
重要なのは、戦争によって、彼が内部からの潜在的な挑戦に遭遇するリスクから隔離されていることです。戦力を拡散させている軍部にはクーデターを起こすだけの余力がありません。治安当局は戦争から恩恵を引き出しているために、クーデターを企てる者と手を組む同機はほとんどないのです。
戦争を続ける限り、プーチンが権力を維持する可能性を高め、ロシアの政治的変化はさらに先送りされるでしょう。
後継者候補
いつかはポストプーチンが誕生します。長期政権の指導者の場合、その40%は、この世を去るまで権力を維持しています。プーチンも命の続く限り政権を維持するつもりかもしれません。
プーチンの死後、エリートたちはプーチンの後任を決めるための戦いを展開し、権力の移行プロセスは混沌としたものとなるでしょう。
混乱が収まっても、ロシアはほぼ間違いなく権威主義国家です。政治状況が自由化へ向かうことは稀です。
後継者は厄介な問題につきまとわれるでしょう。クリミアなど不法に併合した地域の帰属問題をどうするか、ウクライナに賠償金を支払うか、ウクライナでの戦争犯罪の説明責任を果たすかなどの問題への対応が必要になります。プーチンが権力者のまま死亡すれば、ロシアと欧米との関係は、その後も複雑なままでしょう。
変化に必要な衝撃
プーチン政権の個人独裁体質は、変化を拒む強い抵抗を作り出しています。
軍事の低迷が明らかになれば、指導者もその余波を受けます。経済災害や自然災害を含む大きなイベント同様に、軍事的敗北は、指導者の無能さを表面化させ、無敵のオーラは粉砕されるのです。
歪んだ情報環境のなかで生活をしているために、他人が自分と同じ意見を共有していることをほとんど知ることがありません。誰もがうつむいているために、社会的な反対運動は起きにくい状況です。
軍事敗北のような大きなきっかけがあれば、少数派も考えを改め、改革派の市民が自らの立場を表明し、さらに多くの市民が同様の行動を起こすというプラスの連鎖が生じます。
一般的な筋道は、生県外からの圧力です。冷戦終結後、20年以上権力を維持した個人独裁の指導者の3分の1は、民衆の抗議行動や武装反乱によって倒されています。
政権を支持する大衆行動が一般的となり、ロシア人が同胞の「反愛国的」な活動を通報する行動も増えました。しかし、最終的には、動員された社会を政権が管理するのは難しくなるかもしれません。
グローバル化の改善と再設計を
監修
UnsplashのIan Taylorが撮影した写真
グローバル化の終わり?
貿易障壁を取り払い、相互に経済を解放することで、世界は目覚ましい成果を達成しました。統合が進められて、経済的繁栄がもたらされ、貧困層の規模がかつてなく大きく削減されたのです。
人類に繁栄をもたらして支えたのが、20倍に増加した国際貿易取引です。貿易はこの60年間で世界の1人当たり所得を27倍にも増大させることに貢献しています。
COVID19パンデミック、ウクライナ戦争により、新しい考えが生まれました。グローバル化は各国を経済的に強くするどころか、過度のリスクにさらし経済的相互依存は弊害とみなされています。
経済のグローバル化とそれを支える構造を解体するのは間違っています。気候変動、不平等、パンデミックに対処していくには、貿易を含む国際協力が必要不可欠です。グローバル化が終わることを望むべきではありません。将来に向けてグローバル貿易を改善し、再設計していく必要があります。
貿易取引は減少していない
COVID19の経験は、聞きたいするクッションとしての国際貿易の威力をみせつけました。マスク、手袋、綿棒、防護具、パルオキシメーター、ワクチンまで、貿易は切実に必要とされる物資へのアクセスを強化する重要な役目を果たしました。
世界の製品貿易取引額が8%近く縮小したにもかかわらず、医療用品の貿易取引額は16%増加したのです。布製フェイスマスクの貿易額はほぼ5倍に増えました。
パンデミックからの回復も、それに伴う経済危機の回復も、貿易がなければ回復が大幅に遅れていたでしょう。
グローバル化を解体しようとしているにもかかわらず、人々や企業はこれまで以上にグローバル化に依存しているのです。
パンデミックによる欠乏のほとんどを一時的なものにとどめた貿易の力強い復元力を考えれば、根本的な問題は、相互依存そのものではなく、特定の重要製品に関する貿易取引の一部が過度に集中していることにあります。
貿易と平和のメカニズム
国際貿易は、すべての安全保障問題を解決する特効薬でもなければ、現在の安全保障構造のアキレス腱でもありません。しかし、多くの利益を国際的にもたらすものです。
米中貿易は、両国の市民と企業に大きな利益をもたらし、二国間関係を結びつけ、可能な限り協力し、紛争を回避するインセンティブを与えてくれます。
貿易システムは不均衡を抱えつつも、世界の繁栄を支えてきました。激動の時代において、各国が市場の開放を維持できるよう助けるという当初の目的も維持されています。
今後、予期せぬ危機が待ち受けています。貿易がなければ危機を乗り切るのが難しくなるということに他なりません。
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