渇愛/著者:宇都宮直子

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書籍情報

タイトル

渇愛 頂き女子りりちゃん

発刊 2025年7月15日

ISBN 978-4-09-389811-9

総ページ数 254p

書評サイト 読書メーターPR Times

出版社リンク PRESIDENT小学館

著者

宇都宮直子

美術学校卒業後、出版勤務などを経て、フリーランス記者になる。

出版

小学館

もくじ

  • プロローグ
  • 第1章 誰も知らない、私だけの物語
  • 第2章 彼女の罪がわからない
  • 第3章 魔法のマニュアルが取り巻く人々
  • 第4章 逆転する「母」と「娘」
  • 第5章 極彩色の牢獄
  • エピローグ

書籍紹介

 複数の男性から総額約1億5千万円を騙し取り、その手法を「魔法のマニュアル」として販売し逮捕された「頂き女子りりちゃん」こと渡邊真衣被告の事件に迫る衝撃的なノンフィクションです。第31回小学館ノンフィクション大賞を受賞した本作は、単なる犯罪の記録を超え、現代社会の孤独や欲望、つながりを求める人間の複雑な心の動きを鮮やかに描き出しています。

 宇都宮さんが名古屋の拘置所近くに部屋を借り、繰り返し面会に通うほどの熱量は、選考委員からも「異様」と評されるほど。彼女自身の視点が「りりちゃん」に引き込まれ、客観性を失いそうになる葛藤も正直に描かれており、読者はそのスリリングな心の軌跡に引き込まれます。

 「頂き女子りりちゃん」とは、年上の男性を「おぢ」と呼び、巧みな言葉や演出で金銭を詐取した渡邊被告のSNS上のペルソナです。彼女はアッシュブロンドのボブヘアにピンクを基調としたファッションで、歌舞伎町のホストクラブに全財産をつぎ込む生活を送っていました。しかし、単なる詐欺師として片付けるには、彼女の物語はあまりに複雑です。家族や社会から傷つけられた被害者としての側面、孤独を抱えながらも他人とのつながりを求める姿、そして「りりちゃん」という虚構のキャラクターに自分自身を重ねていく過程。宇都宮さんは、被害者や支援者、彼女を「推す」女性たちへの取材を通じて、事件の背景に潜む現代社会の問題を考えさせてくれるでしょう。

 都会の孤独や過剰な「推し活」、犯罪の持つ奇妙な吸引力といった現代社会のテーマを掘り下げます。宇都宮さんが「りりちゃん」と向き合う中で感じた戸惑いや共鳴は、読者にも「彼女はいったい何者なのか?」という問いを投げかける問題作です。

試し読み

※そのままの文章ではありませんが、試し読みする感覚でお楽しみください。

「ギバーおぢ」に育てる

 「おぢ」たちに恋愛感情を抱かせるような完璧に練り上げられた「マニュアル」が存在していました。

 ターゲットを3種類に分類して、どのように「頂き」に至るかを細かく記しています。

「テイカーおぢ(クソおぢ)=自分の利益しか考えていない」
「マッチャーおぢ(中間)=与えた分の見返りを求める」
「ギバーおぢ(良おぢ)=見返りを求めず与えてくれる」

できれば「ギバーおぢ」を狙い、瞬時にターゲットを見極めてたくさんいただきましょうと書いている。

 マニュアルには「頂き女子」の活動は大きく分けて3ステップに分かれています。

  1. 信頼関係構築
  2. お金を頂くための会話
  3. アフターケア

 信頼関係では、毎日LINEをして好意を示してきたら相手への返信を減らし、何かトラブルが起こったことを匂わせます。数日経ってから「家賃を滞納している」などと伝えて、おぢが自発的に助けてくれれば成功のようです。

 よく考え抜かれていて、LINEを送る時間も、仕事中ではなく相手が家にいる時間を狙う、お金を出してくれとは言わない、おぢだから相談した、お金を出すと言われたときも必ず一度は断る、などのポイントやテクニックも細かく書かれています。

 頂きやすい性格の設定編では、自分が不幸であること、特に男性にはコミュ障であること、などが書かれています。

 アフターケアが一番重要だとし、自分にお金を渡したことを後悔させないように、おぢに寄り添いましょう、きもいけど、と綴り、大金を頂く心得を書いています。

『ホスト狂い』あおいさんが言うには

 あおいさんは人気インフルエンサーで、居酒屋にいくとファンがいて、一品を無料で差し出されるような人物であるから「りりちゃん」が理解できることもあるといいます。おなじ「ホスト狂い」であり、ホストではお金を持っていけばいくほど感謝され、稼げば稼ぐほど「りりちゃん」を慕うファンたちは喜んでくれます。そのノウハウを公開すれば多くの反響があって、必要とされました。また、マニュアルを買ってくれた人の相談にも乗っていたようです。

でも、彼女のマニュアルって、よく見ると、彼女がホストたちからされたことを、そのままカモになりそうな男性に『やり返してる』だけなんすよね……

とあおいさんは言う。

 そういえば、マニュアルの最後はこう締めくくられている。

わたしは今まではおぢ側の人間でした、好きになった男の人からお金を要求されては払って、捨てられて、を繰り返してました。そんな私がもっとこんな風にしてくれたらもっとお金を渡したし、恨まなかったし、幸せだった。という経験を裏返しにしたのが頂き女子になっています。

被害者に対してはどう感じているか

 「自分と向き合って、『詐欺って悪いことだったんだ!』とわかったんです」

 渡邊被告は目を輝かせて、何か吹っ切れたかのように答えました。しかし、私が質問をしたのは被害者への気持ちです。

 「そうではなく、あなたの被害者となった、恒松さんや上田さん(仮名)について、今、どう感じていますか」

 そう投げかけると、とても驚いた顔をして、言葉に詰まり、絞り出すように答えました。

個人名を出されるとわからなくなります。一生懸命生きてきて、『自分は正しい道を行った』と思っていたところに、被害者となった人が現れたという感じです。…本当にわからない。その個人となると頭がぐちゃぐちゃになる。

 あなたにそんなことを言われると思わなかったと、傷ついた顔みせました。15回の接見を重ねてきた中で初めてみる顔です。リストカットした時も、母親が面会に来なかったときも、こんな顔は見せませんでした。

 彼女は、自分がしてきた行為が詐欺であることを認識していても、被害者個人が受けた苦しみについては全く理解しておらず、彼女の中で全く整理できていないことが伝わってきます。

 おぢに対しての嫌悪を、私が理解し共鳴していると考えていたのでしょうか。おぢの気持ち悪さを理解しているように見えた私がなぜ、キモイおぢ側に立つのか。裏切られたと感じているのかもしれません。

母から見た娘

 「娘は拘留場にいるのに、母親はホストクラブに行っている」と全世界に投稿され、娘を少しでも理解しようとしてホストクラブを体験した背景をすべて省略して綴っていました。

 「親ガチャ」でいうところの、りりちゃんの母親はハズレだったのでしょうか。娘に人格を否定され、見ず知らずのネットユーザーから「毒親」と見なされるようなことはしていないはずです。

 私は、姉と、平等に育ててきたつもりでしたが、それが寂しくさせていた原因なのかもしれません。
 情状証人のことだって、どうしていいかわからず出廷を拒んでしまいましたが、それも間違っていたようです。
 真衣は反抗期もなく、育てやすい子でした。
 友達がいない、といっていると聞いた時も驚きました。近所に仲のいい子もいましたし、そういった子たちと撮ったプリクラもあります。

「これ、見てください。かわいいでしょう。」といって、携帯から写真のフォルダを選択して見せてくれました。そこには、渡邊被告の赤ちゃんの頃や振袖姿の写真など何枚も記録させています。

 写真に写る、今よりも少しふっくらした渡邊被告は、SNSに登場していた「頂き女子りりちゃん」の面影はありません。

 渡邊被告のごくちゅう日記には、「1人の人間として、いまの私をみてよ」と締めくくられていました。

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