「笑っていいとも!」とその時代/著者:太田省一

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書籍情報

タイトル

「笑っていいとも!」とその時代

発刊 2024年3月20日

ISBN 978-4-08-721306-5

総ページ数 235p

著者

太田省一

社会学者。
テレビ、アイドル、歌謡曲、お笑いなどのメディア、ポピュラー文化の諸分野をテーマにしながら、戦後日本社会とメディアとの関係に新たな光を当てるべく執筆活動を行っている。

出版

集英社

もくじ

  • はじめに なぜいま『笑っていいとも!』なのか? 1982年のテレビジョン
    • 『いいとも!』はテレビの可能性を具現していた
    • テレビは日常的娯楽の中心だった
    • 「真面目」からの脱却_報道、教育番組の変貌
    • 『ひょうきん族』が『全員集合』に買った日
    • 1982年のタモリ
  • 第1章 「密室芸人」タモリが昼の司会に抜擢された理由
    • 番組開始40年以上が経った『いいとも!』
    • 『いいとも!』以前_タモリの「密室芸人」時代
    • 漫才ブーム始まる
    • なぜタモリは「昼の顔」に抜擢されたのか?
    • 相手にするのは「観客」ではなく「視聴者」
    • タモリは「観察するひと」
  • 第2章 「テレフォンショッキング」という発明
    • 「いいともー!」が流行した理由
    • 「テレフォンショッキング」あれこれ
    • 「友達の輪」誕生秘話
    • ハプニング宝庫_黒柳徹子の”番組ジャック”
    • 「テレフォンショッキング」に出演した一般人
    • テレビ的な「虚実皮膜」の面白さ
  • 第3章 「国民のおもちゃ」を演じたタモリ--「仕切らない司会者」と「無」への志向
    • 「仕切らない司会」の極意
    • 「名古屋ネタ」と攻撃的知性
    • 攻撃的知性の屈折が生んだ「国民のおもちゃ」
    • 「ネアカ」と「ネクラ」
    • タモリが理想とした「無」
    • 80年代とタモリ、その重なりとずれ
  • 第4章 視聴者を巻き込んだテレビ的空間--芸人と素人の共存と混沌
    • 素人に支えられていた『いいとも!』
    • タモリは素人にどう接したか
    • 視聴者参加番組小史_70年代まで
    • 萩本欽一がもたらした「素人の時代」とその後
    • プロと素人の共存から生まれる混沌の魅力
    • ナンシー関が見た舞台裏
    • テレビにおける余白の意味_ネットの時代のなかで
  • 第5章 聖地・新宿アルタ--「流浪のひと」タモリが新宿で芸人になった理由
    • 闇市から歌舞伎町へ_新宿の戦後史
    • 新宿の60年代_カウンターカルチャー時代のジャズと演劇
    • タモリが70年代の新宿で再現したもの
    • もうひとつの歴史_新宿アルタと80年代
    • 「流浪のひと」だったタモリ
  • 第6章 『いいとも!』と「フジテレビの時代」--80年代テレビの熱狂と冷静のあいだ
    • 「ポツダム社員」の奮闘_フジテレビの「80年改革」
    • 漫才ブーム到来が意味するもの
    • 笑いに参加する観客
    • 『笑ってる場合ですよ!』の”失敗”
    • 「楽しくなればテレビじゃない」と”面白至上主義”
    • 『ひょうきん族』が実現したお祭り空間
    • なぜ「内輪の笑い」なのか?
    • 『いいとも!』はテレビがつくった「広場」だった
  • 第7章 『いいとも!』と「お笑いビッグ3」--タモリ、たけし、さんまの関係性
    • オープニングに”乱入”したたけし
    • 「終わりビッグ3」誕生の瞬間
    • 珍しく受け身だった『いいとも!』のさんま
    • たけしがタモリに送った”表彰状”_共通点としてのニヒリズム
    • 「ビッグ3」の空気感
  • 第8章 『いいとも!』の個性的なレギュラー陣たち
    • 出演機関が最長だった関根勤
    • タモリが最も頼りにした笑福亭鶴瓶
    • 「お笑い第三世代」以降にとっての『いいとも!』
    • 作家から政治家まで各界著名人がレギュラーに
    • 「ありのままの姿」を許してくれた『いいとも!」
  • 第9章 SMAPが『いいとも!』にもたらしたもの
    • 『いいとも!』が迎えた危機
    • SMAPとフジテレビ・荒井昭博の出会い
    • SMAPのレギュラー起用はいかに実現したのか
    • 『いいとも!』での中居正広、香取慎吾、草彅剛
    • SMAPがつなぎ直した『いいとも!』と視聴者
  • 第10章 「グランドフィナーレ」を振り返る--なぜテレビ史の伝説となったのか
    • 吉永小百合の『いいとも!』初出演
    • 「タモリ・さんまの日本一の最低男」再び
    • テレビ史上に残る”芸人大集合”
    • タモリは怒らなかった
    • 終わったものと終わらなかったもの
    • _『いいとも!』とは、そしてテレビとは?
  • 終章 『いいとも!』は、なぜ私たちのこころに残るのか?--戦後日本社会とテレビの未来
    • 「つながり」の魅力
    • 広場としての『いいとも!』
    • タモリという生きかた
    • もうひとつの「つながり」_戦後民主主義とテレビ
    • 『いいとも!』が指し示すテレビの未来
  • おわりに テレビが初めて迎える「戦前」
    • タモリが口にした「新しい戦前」
    • テレビの聖衆を引き継いだタモリ
    • タモリに見るテレビの成熟
    • 「わからない」層と80年代テレビ
    • 「戦前」を「戦後」に反転させるために

紹介

 日本のテレビ界における画期的な番組「笑っていいとも!」と、その中心人物であるタモリ(森田一義)の影響を深く掘り下げた作品です。著者の太田省一は、番組が始まった1982年からその終了までを綿密に追い、当時の社会やテレビ業界の背景と共に、タモリのキャリアや個性、そして番組が文化に与えた影響を詳細に解析しています。

 タモリがどのようにして「昼の顔」として抜擢されたのか、そして「テレフォンショッキング」や「視聴者参加」などの革新的なアイデアがどのように生まれ、人々を夢中にさせたのかを探ります。また、タモリの「仕切らない司会」スタイルや、「国民のおもちゃ」としての彼の役割、そして「ビッグ3」(タモリ、ビートたけし、明石家さんま)の関係性についても深掘りしています。

 「笑っていいとも!」が日本の昼のテレビ番組としてどのように画期的であったのか、その歴史的意義や社会的影響を通して、タモリの人物像とテレビエンターテインメントの進化を浮き彫りにしています。著者は、新宿アルタを舞台にしたタモリの若年期や、「フジテレビの時代」としての80年代の熱狂、そして最終的に番組がどのようにしてテレビ史の伝説となったのかを掘り下げています。

 読者は「笑っていいとも!」とタモリが日本のポップカルチャーに及ぼした影響の大きさを理解できるでしょう。また、テレビが社会とどのように連動しているか、そしてそのメディアが未来にどのような可能性を秘めているかについても考えるきっかけを得ることができます。太田省一は、ただのテレビ番組の歴史を超えて、タモリという人物と日本のテレビ文化の進化を、深い洞察力と興味深いエピソードを交えて紡いでいます。

1982年のタモリ

 1970年代後半、タモリはでたらめ外国語やイグアナのモノマネなど、怪しげな芸を連発する「密室芸人」として注目を集めました。

 1982年10月に始まった『タモリ倶楽部』は、パロディ精神に富んだ番組でした。廃盤になったレコードを深掘りする「廃盤アワー」のようなマニアックなコーナーと並び、ディスコで流行ったステップを学ぶ「SOUL TRAIN」をパロディ化した「SOUB TRAIN」(「総武線」のもじり)などの企画が話題を呼びました。

 他の番組では、酒を酌み交わしながらのトークや、タモリ自らがトランペットを演奏する音楽コーナー、出演者によるコントなどが披露されています。

 冠番組も増えたタモリですが、パロディを多用したユニークな芸風は、万人受けするものではありませんでした。実際、彼は「嫌いなタレント」の代表格と見なされることもありました。

タモリが理想とした「無」

 タモリが発した言葉、「自分の主義主張や思想、建前を持って人と会うな」と「いつもフラットな気持ちで、無の状態で人と会えば、本当にわかり合える」という言葉は、何事にも意味付けしないと気が済まない姿勢から解放され、「無」になることの重要性を示唆しています。

 偽善やルールだらけの社会に対して、タモリは「毒」を持って対抗しようとしています。彼の得意とするパロディは、偽善やルールを茶化し、できるだけ無効化しようとする試みです。

 タモリは言います。

 バカなものにある、開放的というか、日常からはみでた突飛生という得体のしれない力を楽しむ、これは知性がなければできないことだからだ。どんなものでも面白がり、どんなものでも楽しめる、これには知性が絶対必要だと思う

ありのままを許容する

  『いいとも!』のレギュラー出演者たちは、常識の物差しでは測れないほどの個性を持つ「豪傑」たちです。彼らが集うことで、番組にはまるで梁山泊のような趣があります。

 そして『いいとも!』は、社会的な肩書を外し、一人の人間としてのありのままの姿を表現する場です。これは単なる祭りの場ではなく、個々が自己表現を通じて自由に交流できる、稀有な癒しの場ともなっています。

 視聴者にとっては、自らをさらけ出す有名人に対して、多少なりとも「もう一人の自分」を託していたのかもしれません。

タモリは怒らない

 香取慎吾さんは、「遅刻しても一度も怒られたことがなかった」と述べています。また、三村マサカズさんは、「タモリさんの前では何を言っても大丈夫だろう」と感じていたと言います。

 いつも失言をしてしまう自分が『いいとも!』で邪魔者になると思っていた太田光さんも、怒られたことがないと感じています。

 寛容さ、ひいては「仕切らない司会」は、そんなタモリ自身の信念から生まれたものではないでしょうか。

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