本当に役立つ経済学全史/著者:柿埜真吾

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書籍情報

タイトル

テンミニッツTV講義録①

本当に役立つ経済学全史

発刊 2023年11月1日

ISBN 978-4-8284-2569-6

総ページ数 206p

テンミニッツTV

著者

柿埜真吾

経済学者、思想史家。高崎経済大学非常勤講師。

出版

ビジネス社

もくじ

  • はじめに_「経済学史」は現実の経済を読み解くのに役立つ
  • 教養動画メディア「テンミニッツTV」とは
  • 第1講 経済学史の概観
    • 経済学史の基礎知識…大きな流れをいかに理解すべきか
      • 資本主義はそれまでの経済とどう違うか
      • 必ずしも「古典派経済学は古い」わけではない?
      • 「なんでも自由保人すればいい」は古典派的な発想ではない
      • 学説の失敗か、制作の失敗か_賢人政治と経済学
      • 「大きな政府」と「小さな政府」で行き来している
      • コラム ミクロ経済学とマクロ経済学
  • 第2講 重商主義と重農主義の真実
    • 重商主義と重農主義…古典派経済学の前段階の主張とは?
      • 重商主義の始まり_「経済には法則がある」という気づき
      • 重商主義の終わり_みんなが気づき始めた2つの「おかしい」
      • 経済は「自由放任(レッセフェール)が良い」
      • 重農主義は農業保護主義ではなく、自由放任主義
      • コラム 「自由放任」の由来
  • 第3講 見えざる手と比較優位の真意
    • アダム・スミス「見えざる手」の真実とリカード「比較優位」
      • アダム・スミスによるイギリス重商主義に対する痛烈な批判
      • 「見えざる手」が説く価格メカニズムと市場経済
      • アダム・スミスは自由放任を説いたわけではない
      • リカードの「比較優位」を「シャーロック・ホームズ」で考えてみる
      • 国同士でも比較優位は成り立つ
      • コラム 哲学者としてのアダム・スミス
  • 第4講 古典派経済学の特徴と時代的背景
    • 古典派経済学が繁栄をもたらした…柱は自由貿易と貨幣数量説
      • 古典派経済学の柱は「自由貿易」と「貨幣数量説」
      • 古典派の限界…現代では通用しない「労働価値説」
      • マルサス「人口論」のおかしさ
      • 古典派経済学の帰結_自由貿易と産業革命による経済的繁栄
      • デフレ不況をもたらした「金本位制」
      • コラム ドイツ関税同盟の誤解
  • 第5講 古典派を批判した異端者たち
    • 異端の経済学者…ドイツ歴史学派、社会主義、マルクス主義
      • かなり問題含みの保護主義…リスト主張
      • 「空想的社会主義」は本当に「空想的」だった
      • マルクス主義は、ややずるい?…人気となった理由
      • コラム マルクスの目指したのは脱成長だったのか
  • 第6講 労働価値説から限界革命へ
    • 限界効用理論とは?…「労働価値説」はいかに否定されたか
      • 「労働価値説」に向けられた批判
      • 「限界」とは、「追加の1単位」のこと
      • 経済学の数学化と「一般均衡理論」
      • 学説の純粋な進歩_イデオロギーは関係ない「限界効用理論」
      • コラム 限界革命の先駆者たち
  • 第7講 新古典派経済学とは何か
    • 新古典派経済学への誤解と実際…特徴と古典派との違いは?
      • 「新古典派」への誤解_現実の「新古典派」はもっと柔軟
      • 穏健なケンブリッジ学派、数理的分析を好むローザンヌ学派
      • 新古典派では特殊なオーストラリア学派、一番面白いのはメンガー
      • 資源の配分は限界生産力によって決まっている
      • 資源の配分は限界生産力によって決まっている
      • 景気変動の問題と貨幣の関係
      • コラム クールヘッド&ウォームハート
  • 第8講 1929年世界大恐慌の真実
    • 貨幣数量説と大恐慌…大恐慌の本当の原因はFRBのミスだった
      • 「貨幣数量説」の重要なポイントは「短期的な影響」の大きさ
      • なぜ大恐慌が起きたか
      • 大恐慌のスタートは「株価暴落」ではなかった
      • FRBがやるべきことをやっていなかった
      • コラム 真正手形ドクトリン
  • 第9講 ケインズ、計画経済、オーストリア学派
    • 大恐慌とケインズ…様々な「教皇克服の処方箋」の真実を探る
      • 結局、ケインズの理論とはどういうものだったか
      • 宣伝と実態は大違い…ソ連の「プロパガンダ」を信じた人々
      • オーストラリア学派も有効な処方箋を示せず
      • コラム ケインズ理論の大流行
  • 第10講「ケインズ政策」の誤解と真実
    • ケインズ革命への誤解…真に独創的なのは、どの部分か?
      • 「ケインズ革命」は実は誤解されている
      • ケインズが述べた財政政策の真のポイントとは?
      • ケインズは金融政策の重要性も説いていた
      • 危うさも併せ持つケインズの発送…さらにその弟子
      • コラム 流動性の罠
  • 第11講 オーストラリア学派の真実
    • オーストリア学派…ミーゼス、ハイエク、シュンペーター
      • ミーゼスが提起した「そもそも計画経済は可能なのか」
      • 計画経済は「隷従への道」だと一蹴したハイエク
      • シュンペーターが指摘した「企業家の創造的な破壊」
      • コラム 企業家の役割
  • 第12講 ヒトラーの経済政策への誤解
    • 「ヒトラー経済政策はケインズ的で大成功だった」は大嘘
      • ヒトラーの経済政策が「素晴らしかった」はまったくの誤解
      • ドイツの失業率が激減したカラクリ
      • 第二次大戦前に「乳児死亡率」が上がっていた!
      • コラム ドイツ共産党の反ユダヤ主義
  • 第13講 20世紀最大の経済学者フリードマン
    • ミルトン・フリードマン…金融政策の復権と自由市場の重要性
      • 「大きな政府」に異を唱えたフリードマン
      • 恒常所得仮説_公共事業の経済効果は大きくない
      • マネタリズム_金融政策の重要性を指摘
      • 「弱肉強食」に非ず…福祉制度も提唱したフリードマン
      • 学説と人格は別なのに…それよりも大切なこと
      • コラム 政府も失敗する
  • 第14講 ケインズ政策の限界と転換
    • 「貨幣量と物価」の現代経済史…そしてスタグフレーション
      • 長い目で見ると貨幣の量と物価はみごとに比例している
      • ケインズ政策の「過信」が招いたスタグフレーション
      • 党派に関係なく、フリードマンの主張は受け入れられた
      • コラム ルールか裁量か
  • 第15講 3つのケインジアンとMMTの違い
    • 「ケインジアン」の分析とMMT?…正統と異端の見分け方
      • ケインズのすぐ後に登場した「オールドケインジアン」
      • 「制約された裁量」を重んじる「ニューケインジアン」
      • 市場経済への不信感が強い「ポストケインジアン」
      • 「MMT(現代貨幣理論)」とは何か
      • ポストケイン事案からも批判されるMMTの問題点
      • コラム 貨幣固定説とMMT
  • 第16講 現代経済学のコンセンサス
    • 結局、主流派と異端はの何が違うか…経済学史の大きな示唆
      • スタグフレーションが与えた影響
      • 主流派と異端派は何が根本的に違うのか
      • 「自分が考えた理論が正しい」という理論は誤り
      • 長期的視点でみると、起こるべくして起こったインフレ
      • 現代の経済学のコンセンサス_経済学の伝統と英知を活用すべし
      • コラム さらに知りたい読者のために
  • 参考文系・読書リスト

はじめに

 経済学の歴史を学ぶことは、現実の経済を読み解くうえでも、大いに役立ちます。

 経済についての議論の多くは、何らかの「前提」を設定して、その前提をベースに理論を組み立ています。前提が間違えており、論理的に組み立てられていると、間違いに気づきづらいのです。

 そんなときに、役立つのが「経済学史」になっています。

マルクス主義が人気になった理由

 マルクスやエンゲルスの思想は「経済法則に基づいた社会主義だ」というのです。けれど、ややずるいところがあります。

 魅力的な代替案を提示することによって人を惹きつけるというよりは、資本主義がいかにダメかということを徹底的に強調するやり方で社会主義を主張しています。

 例えば、リカード流の「労働価値説」を上手く利用してこんな主張をしているのです。

 富を生み出したのは労働者なのに、資本家が儲けているではないか。これは労働者を搾取しているのだ。労働が価値を生み出すのに、他の人が富を持っているのはおかしい

 労働だけが価値を生み出し、労働者以外の所得は労働者からの収奪であるとのことです。労働者どんどん貧乏になっていき、恐慌がおこって資本主義が崩壊すると予言しています。

 マルクスの予言は、まったく当たっていないことを覗けば、実によくできています。そして、古典派経済学の考え方を、ほとんど丸呑みしているのです。シュンペーターという経済学者が「マルクスはリカードを全部飲み込んだ」と書いていますが、まさにそうです。

大恐慌は「株価暴落」がスタートじゃない

 大恐慌後、フリードマンとアンナ・シュウォーツというアメリカの経済学者の研究によって、貨幣が無力だったから大恐慌が起きたわけではないことが明らかになりました。

 当時のFRB(アメリカの中央銀行)は、派閥の対立というどうしようもない理由でまともな意思決定ができなくなっていたことが見えてきたのです。

 金融緩和を行っていたときにはきちんと効果があって、景気は一時的ではありますが、回復しています。

 1929年の株価大暴落が大恐慌の原因だといわれていますが、FRBがバブルが起こっていることを心配して厳しすぎる金融引き締めをした結果、1929年8月頃から景気が崩壊したというのが、スタートになっています。

ドイツの失業率が激減したカラクリ

 ナチスの大きな業績だといわれるアウトバーンですが、ワイマール共和国時代にすでに計画があって、造りはじめていました。

 つまり、ナチスが自分たちの正当性を高めるために、自分たちが造ったわけではないものを横取りしただけの話です。一種のプロトガンダでした。

 金融引き締めを止めたにしては、失業が激減しています。軍隊を公共事業と認識すれば、失業が減ったと受け入れられるのです。それだけでなく、女性を働かせないキャンペーンで引退させたり、ユダヤ系の人たちを虐殺して、見かけ上、失業を減らしました。

インフレは必然だった

 MMTの発想では、金融緩和を続けてもインフレは起きないとしていました。そして、インフレが起こったあとも「一時的」「成長の途中の痛み」という、よくわからないことをいいはじめたのです。

 歴史的に観れば、単純に金融緩和をやりすぎたということが背景にあります。コロナ禍の時期に貨幣量が増えています。

 危機に対して金融緩和を大規模に行うのは間違っていませんが、インフレになるのは待逃れなかったのです。今後はもとに戻っていくと思います。

 長期的には、うまくいかない短期大規模緩和だったわけです。

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