イーロン・マスク 上/著者:ウォルター・アイザックソン

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書籍情報

タイトル

イーロン・マスク 上

発刊 2023年9月10日

ISBN 978-4-16-391730-6

総ページ数 462p

著者

ウォルター・アイザックソン

ジャーナリスト、戦記作家。
米国『TIME』誌編集等、CNNのCEO、アスペン研究所CEOを歴任。
世界的ベストセラ―になった『スティーブ・ジョブズ』(講談社)などの著作がある。
現在はトゥレーン大学教授。

訳者

井口耕二

出版

文藝春秋

もくじ

  • 序章 火の女神 炎のミューズ
  • 第1章 冒険者の系譜
  • 第2章 マスク自身の心 プレトリア(1970年代)
  • 第3章 父との暮らし プレトリア(1980年代)
  • 第4章 探求者 プレトリア(1980年代)
  • 第5章 脱出速度 南アフリカを出る(1989年)
  • 第6章 カナダ(1989年)
  • 第7章 クイーンズ大学 オンタリオ州キングストン(1990~1991年)
  • 第8章 ペンシルバニア大学 フィラデルフィア(1992~1994年)
  • 第9章 西へ シリコンバレー(1994~1995年)
  • 第10章 Zip2 パロアルト(1995~1999年)
  • 第11章 ジャスティン パロアルト(1990年代)
  • 第12章 Xドットコム パロアルト(1999~2000年)
  • 第13章 クーデター ペイパル(2000年9月)
  • 第14章 火星 スペースX(2001年)
  • 第15章 ロケット開発に乗り出す スペースX(2002年)
  • 第16章 父と息子 ロサンゼルス
  • 第17章 回転を上げる スペースX(2002年)
  • 第18章 ロケット建造のマスク流ルール スペースX(2002~2003年)
  • 第19章 マスク、ワシントンへ行く スペースX(2002~2003年)
  • 第20章 創業者そろい踏み テスラ(2003~2004年)
  • 第21章 ロードスター テスラ(2004~2006年)
  • 第22章 クワジュ スペースX(2005~2006年)
  • 第23章 ツーストライク クワジュ(2006~2007年)
  • 第24章 SWATチーム テスラ(2006~2008年)
  • 第25章 ハンドルを握る テスラ(2007~2008年)
  • 第26章 離婚(2008年)
  • 第27章 タルラ(2008年)
  • 第28章 スリーストライク クワジュ(2008年8月3日)
  • 第29章 崖っぷち テスラ、スペースX(2008年)
  • 第30章 4回目の打ち上げ クワジュ(2008年8~9月)
  • 第31章 テスラを救う(2008年12月)
  • 第32章 モデルS テスラ(2009年)
  • 第33章 民間による宇宙開発 スペースX(2009~2010年)
  • 第34章 ファルコン9、リフトオフ ケープカナベラル(2010年)
  • 第35章 タルラと結婚(2010年9月)
  • 第36章 生産 テスラ(2010~2013年)
  • 第37章 マスクとベゾス スペースX(2013~2014年)
  • 第38章 ファルコン、鷹匠に従う スペースX(2014~2015年)
  • 第39章 タルラのジェットコースター(2012~2016年)
  • 第40章 人工知能 OpenAI(2012~2015年)
  • 第41章 オートパイロットの導入 テスラ(2014~2016年)
  • 第42章 ソーラー テスラエナジー(2004~2016年)
  • 第43章 ザ・ボーリング・カンパニー(2016年)
  • 第44章 苦難の人間関係(2016~2017年)
  • 第45章 闇に沈む(2017年)
  • 第46章 フリーモント工場の地獄 テスラ(2018年)
  • 第47章 オープンループ警報(2018年)
  • 第48章 落下(2018年)
  • 第49章 グライムス(2018年)
  • 第50章 上海 テスラ(2015~2019年)
  • 第51章 サイバートラック テスラ(2018~2019年)
  • 原注
  • 写真クレジット

序章 苦しみが原点

 学校はつらかった。誕生日の関係からクラスで一番幼く、身体も一番小さかった。さらに、人間関係をうまくこなすことができなかった。共感は苦手だし、ほかの人に好かれたいとかも思わないし、気に入られようとすることもない。だから、どこに行ってもいじめられ、顔を殴られた。
 殴られると人生がどう変わるのかは、殴られたことがある人でないとわからないでしょう。

 イーロン・マスクは、父親の影響から逃れられずいました。気分が明るくなったり暗くなったり、エネルギッシュになったりぼんやりしたり、感情が揺れ動いたり動かなくなったりと行ったり来たりを繰り返すのです。ときどき「悪魔モード」へ急降下して周囲に恐れられることもあります。子ども時代のPTSDで、満たされるのを嫌うようになったのでしょう。

 スペースXは打ち上げにこぎ着けたものの初回から3回連続でロケットが爆発してしまうわ、テスラは倒産しけれるわと大変な年になってしまった2008年には、朝、のたうち回って目を覚まし、昔、父親にあんなことを言われた、こんなことを言われたと、ふたり目の妻、タルラ・ライリーに語ることが多かったといいます。

 嵐が近づくと精を実感するタイプです。仕事においても恋愛においても騒動に惹かれ、願い望むこともあります。

 世界一の遊び場、ツイッターの株を買い集め、4月には、ときおりデートする女性、俳優のナターシャ・バセットを連れて、メンターであるラリー・エリソンをハワイに訪ねることにしました。ハワイ滞在中に心を決めました。やはりすべてを把握しないと気がすすみません。だから、敵対的買収をしかけることにしたのです。

 続けてバンクーバーに飛び、グライムスに合って、グライムス宅で朝5時まで人気ゲーム『エルデンリング』に興じ、その後、ツイッターで「申し入れをした」と発表しました。

 暗いところに入ったり怖いと感じたりすると、昔、遊び場でいじめられた恐怖がよみがえってきます。そんなマスクに、遊び場を我が物とするチャンスが巡ってきたわけです。

小中高時代

 イーロン・マスクの成績は悪くなかったが、ずばぬけてよかったわけでもありません。

 「イーロンくんは数学的概念の理解が早い」
 「ほかのことを考えすぎて、時間がかかる」
 「仕上げられることがほとんどないので、来年はやるべきことに集中してください」
 「想像力にあふれる作文を書くのですが、必ずしも時間内に書き終わらなかったりします」などです。

 中学時代の平均点は、100点満点の83点です。

 私立プレトリア男子高校に転入しました。礼拝があって制服がある英国型のが学校です。アフリカーンス語や宗教指導という科目では良い成績を収めていません。

 意味がないと思うものはやる気にならなくて。そんなことをするより本を読むか、ビデオゲームでもしているほうがいいと思ってしまうんです

 そんなわけで、物理学は卒業試験でAをとっています。(数学はなぜかBしか取れなかった)

 自由時間には小さなロケットを作り、プールに使う塩素とブレーキオイルなど、いろいろ混ぜては、どれが一番爆発するか試したりしています。マジックと催眠術も学んでいます。

 また、イースターにチョコで作った卵を銀紙にくるみ、ドアからドアへと売り歩くなど、お店よりも価格を高くする、事業の真似ごともしています。

 気の休まるオアシスは読書です。午後から夜まで9時間ぶっ通しで読み続けることもありました。誰かの家に行くと、そこの本棚に張り付き、街に出かければ書店に居つきます。床に座ってスーパーヒーローといった世界に浸っていました。

 父親の部屋でみつけたある本に、省らはこんな発見がなされるだろうと書かれているものがありました。イーロンは、学校から帰ると父親の脇部屋へ行き、将来の本について読んだようです。その中に、イオンエンジンのロケットのことものっていました。

 あの本を読んで初めて、ほかの惑星に行くことを考えました

ペイパル

 電子決済システムを統合し、ペイパルという名前で展開することにしました。このシステムを中心に、急成長が続きます。けれどマスクは、ニッチ製品に満足するタイプではありません。めざすは業界全体の変革です。銀行業界全体を揺るがすようなソーシャルネットワークを作るという当初目的に立ち返ることにしました。

 会社の名前はXドットコムとし、ペイパルはXドットコムが持つブランドのひとつと考えるべきです。

 ニッチな決済システムになりたいのなら、ペイパルのほうがいいでしょう。でも、世界の金融システムを乗っ取りたいのなら、Xという名前のほうがいいのです

 職場では口にできないいかがわしいサイトと連想される調査で明らかになっていようと、マスクは揺るぎません。

 マスクはペイパルを再編し、独立のエンジニアリング部門をなくしました。エンジニアは製品マネージャーとチームにする。そのあと、テスラでもスペースXでもツイッターでも採用することになるマスク一流の哲学です。

オバマ、スペースXを訪問

 昔NASAで働いていたガーバーは、ロケット開発の方針を変えるべきだと民主党新人候補のオバマを説得したいと考えていました。2008年9月当時は、NASAがスペースシャトル計画を白紙、コンステレーションなる新しいロケット計画に切り替えようとしていた時期です。昔ながらの合併企業ユナイテッド・ローンチ・アライアンスに実質精算契約を与えて部品の大半を作らせるという計画が、予想のコストを倍以上に膨らんでしまって完遂のめどがたたなくなっていました。

 なので古い計画を破棄し、宇宙飛行士を宇宙に届けられるロケットの開発をスペースXのような民間企業にまかせたほうがいい、ガーバーはそうアドバイスしていたのです。

 スペースXが3回連続で打ち上げに失敗していて、4回目のファルコン1打ち上げにトライしようとしていた時期なので、民間に任せるべきだというにはリスクがありました。

 実際に4回目のファルコン1の打ち上げが成功すると、オバマ候補の側近からお祝いの電話が何本も入り、最後はオバマ大統領に任命され、ガーバーはNASAの副長官になりました。

 民間に任せることへの批判はありましたが、的外れとなりました。スぺースXを主力として、米国は宇宙飛行士も衛星も物質も、世界一たくさん宇宙に送った国になっています。

 オバマ大統領は、2010年4月にケープカナベラルを視察することにしました。演説のあと、マスクと並び、輝くファルコン9の周りを歩きながら楽しげに話をしている映像がテレビに流れています。

サイバートラック

 マスクは、宇宙船を輝くステンレススチールで作るというアイデアに心を奪われていました。気づけば、ステンレスの小型トラックもありかもしれないという考えがでてきたのです。ステンレスなら塗装する必要がないし、ボディも構造体の一部として考えられるという発想です。

 何週間か検討を重ねて、ある金曜の午後、スタジオに姿を現したマスクは宣言しました。

 全部ステンレスで作ろう

 ステラの特許技術である「冷間圧延」による超硬ステンレス合金なら、強度的にもコスト的にも、トラックやロケットに十分使える材料です。

 ステンレスを採用すれば、外観の可能性も拓けます。炭素繊維なら型打機で微妙な形状してボディパネルとしますが、ステンレスなら平らな面と鋭い角で構成したほうがいいのです。つまり、もっと未来的でとんがったデザインにならざるをえません。

 ビデオゲームの『ヘイロー』に出てきた車や『サイバーパンク2077』のトレーラーに出てきた車、リドリー・スコットの映画『ブレードランナー』にでてきた車がもうすぐリリースされます。と、紹介し、「未来っぽく見える未来にしたいんだ」と語りました。

 サイバートラックの頑丈さを示すデモンストレーションでは、ボディをスレッジハンマーでぶんなぐる。へこまない。続けて、防弾ガラス」に鉄球を投げつけると、割れないはずだったのですが、ヒビが入ってしまいました。「えええ!」とマスクも驚き、「やりすぎたかな」と苦笑いです。結果として、翌日、株価が6%も下落しました。けれど、マスクは満足だったようです。

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