経済評論家の父から息子への手紙/著者:山崎元

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書籍情報

タイトル

経済評論家の父から息子への手紙

お金と人生と幸せについて

発刊 2024年2月15日

ISBN 978-4-05-406975-6

総ページ数 192p

著者

山崎元

経済評論家。
三菱商事、野村投信、住友生命、住友信託、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一証券、明治生命、UFJ総研など転職を経験。経済解説や資産運用を中心にメディアに出演し、人気を博していた。
没2024年1月1日(65歳)

出版

Gakken

もくじ

  • まえがき
  • 第1章 働き方・稼ぎ方
    • 「昭和生まれの働き方常識」は”割が悪い”
    • 「新しい働き方」は効率性と自由を求める
    • 株式による報酬を取り込め
    • 「株式で稼ぐ働き方」を実践せよ
    • 株式制の報酬には複数の魅力がある
    • 大金持ちになる方法の鍵は「有利で安全なレバレッジ」
    • 単純な借金は危険過ぎる
    • 信用取引、FX、暗号資産は借金を伴うギャンブルだ
    • 「クビ」のコストは総合的に小さい
    • 時代はゆっくりと、まだら模様に変化する
  • 第2章 お金の増やし方と資本主義経済の仕組み
    • お金の運用について必要な「基本」はこれだけ
    • 借金なしに済む「生活資金」は常に確保せよ
    • 運用資金は全額「全世界株式のインデックスファンド」だけでいい
    • どうしても損が嫌なら「個人向け国債変動金利型10年満期」
    • 金融機関はネット証券大手がいい
    • 運用の3原則は「長期」「分散」「低コスト」
    • 「長期投資」は売り買いせずにじっと待つ
    • 集中投資よりも分散投資が断然いい
    • 手数龍とは「確実なマイナスのリターン」
    • インデックスファンドなら何でもいいわけではない
    • アクティブファンドはほぼすべてがダメ
    • アクティブファンドがダメな理由は「平均投資有利の原則」
    • 「全世界株式」を選ぶ理由も「平均投資有利の原則」
    • 「全世界株式のインデックスファンド」の具体的な運用商品例
    • 株式投資の正確な意味を知る
    • 生産には「資本」と「労働力」を使う
    • 資本とは雑多な財産に貼られたラベルに過ぎない
    • 典型的には、労働者が利益を提供してくれる
    • リスクを取りたくない労働者が安い賃金で我慢する
    • 「取り替え可能」な労働者は立場が弱い
    • 資本化と債権者の力関係は変化する
    • 資本家をカモにする「労働者タイプB」の出現
    • 「労働者タイプA」のみになることを全力で回避せよ
    • 「労働者タイプB」をほどほどに目指せ
    • 株式のリターンは成長からではなく株価形成から生じる
    • 株価は将来利益の割引現在価値だ
    • 高成長でも、低成長でも、割引率が同じなら期待リターンは同じ
    • 分散投資は投資家が自分でできる運用の改善だ
    • 株式投資は「動かないで稼ぐ」ことではない
    • お金の問題は感情を廃止て理屈と計算で考える
    • 人間関係とお金の問題を完全に切り離せ
    • 保険とは「損な賭け」のことである
    • お金は、シンプルに管理して、おおらかに使う
    • 経済格差は「資本のリスク」と「リーダーシップ」から生じる
  • 第3章 もう少し話しておきたいこと
    • 自分の人材価値を中心に考える
    • 最初の仕事は「興味が持てて」、「倫理観に反しない」もの
    • 早く「転職できる人材」になる
    • 自己投資で得るものは、知識・スキル・経験・人間関係・時間
    • 時間の値段を意識する。「年収1千万円は時給5千円」
    • 一つの分野への自己投資の目処は「2年」
    • 「頭のいい奴」、「面白い奴」、「本当にいい奴」と付き合う
    • 人間関係の基本は「時間厳守」と「爽やかな挨拶」
    • 勉強会は幹事を引き受ける
    • 会食は手抜きをするな
    • お酒は「ひとクラス上」を飲め
    • キャリアプランニングで意識する「28歳」、「35歳」、「45歳」
    • 28歳は、30代前半を活かすためのタイムリミット
    • 35歳で人材として評価が定まる
    • 45歳がキャリアの曲がり角
    • 転職は「人材価値を活かす」ための手段だ
    • 転職していい理由は3つ
    • 転職を「常に」意識する
    • 転職の「コスト」を意識する
    • 小さくても副業のチャンスは逃すな
    • 本業も副業も時々見直せ
    • ワークライフバランスは「ほどほど」に
    • お金は必要なだけ稼げばいい
    • 機会費用を見落とすな
    • サンクコストにこだわるな
    • 評論のコツは利害と好き嫌いの棚上げ
  • 終章 小さな幸福論
    • 幸福の決定要素は、実は一つだけ
    • お金と自由とは緩やかに交換可能だが、それで幸福か?
    • モテない男は幸せそうに見えない
    • 仲間内の賞賛には高い価値がある!
    • 価値観の99%は他人が作った概念でできている
    • 仲間内の評価には「強すぎる効果」がある
    • 自己承認感によるマインドコントロール
    • 複数の「場」を意識的に持て
    • 他人との比較という厄介な問題がある
    • 「2割増しの自由」を複数組み合わせよ
    • 「自分の嬉しいこと」を言語化せよ
    • 「モテ」の秘訣はただ一つ
    • 上機嫌で暮らせ!
  • 付記 大人になった息子へ―息子への手紙全文
  • あとがき

まえがき

 私は自分の息子たちや娘たち、そして若い人たち全般に対して、「どうしても大金を稼がなければならない」と言うつもりはありません。お金は目的ではなく、あくまで手段にすぎないと私は考えています。必要最低限があればそれで十分。お金持ちを目指しても構わないし、そうでなくても良いのです。それは個人の自由だと思います。

 しかし、お金を稼ぐ方法や増やす方法において、不利な立場に立たされてほしくはありません。社会の波に流され、何となく働いているだけでは、利益を一方的に提供する立場に追い込まれてしまい、損をしてしまいます。資本主義経済はそのような構造を持っています。

 毎年就職活動のシーズンが来ると、リクルートスーツに身を包んだ学生たちが企業の説明会に足を運ぶ姿が報道で取り上げられます。これらの映像を見るたびに、私は悲壮感を感じずにはいられません。

 彼らの多くが経済的に不利な立場に置かれ、企業に利益を吸い取られる形で非効率的な一生を送ることになります。正社員としての地位を得たことで彼ら自身も安心し、親からも称賛されるでしょう。しかし、親世代の時代と比べて、有利な働き方や稼ぎ方が大きく変わっていることに、多くの親子が気づいていないのが現実です。

株式性の報酬には複数の魅力がある

①規模拡大による利益のかけ算(面的な拡大)

 企業が一度成功の軌道に乗ると、商品の生産量を増やしたり、店舗数を拡大することで、ビジネスのスケールを何倍にも拡大することが可能です。社員数を100人から1万人へと増やしていくことで、比例して利益も大きく拡大することができます。成功した企業の株式を所有することで、この利益拡大の恩恵を受けることができます。

②将来利益が今評価される時間方向のかけ算(時間方向の拡大)

 株価は、来年や再来年、そしてそれ以降に稼がれるであろう利益とその成長率への予測を加味して評価されます。このため、事業が成功している企業の株式は、面的な拡大と時間方向の拡大の両方によって価値が算出され、時には成長への期待値までが評価に加わります。株式が公開され成功すると、その上昇余地は非常に大きくなります。

③成功報酬は評価甘くなりがち

 ヘッジファンドの運用者が伝統的なファンドマネージャーよりも豊かなのは、成功報酬型の報酬構造によるものです。株式に基づく報酬は、成功に応じて与えられることが多く、固定給よりもはるかに有利な条件になります。このようなリスクを受け入れることは、成果主義にも通じ、リスクを取ることが報われる文化では、より大きな成果を目指すマインドセットが重要です。

④株式の報酬はキャッシュの報酬よりも甘くなりがち

 成長期にある企業は、ビジネスの拡大に資金を投じたいと考えています。そのため、キャッシュフローを減らすために、報酬の一部を株式で支払うことがあります。キャッシュでの支払いを避けることで、より有利な条件で報酬を提供できることが多いのです。

⑤株式のリターンは賃金上昇率よりも大きい

 株式による報酬は、受け取った瞬間に換金できないことが多いですが、保有期間中に大きなリターンをもたらす可能性があります。これは、一般的な賃金の上昇率を上回ることが多く、株式報酬が魅力的な選択肢となる理由です。

リスクを取る労働者

 株式報酬を求めることで、経営者や特殊技能を持つ専門家、投資銀行家などに近づく個性的な労働者が、ますます存在感を示しています。リスクを避けて周囲と同じ働き方を選ぶ人と比べ、人生での有利不利の差は大きくなっています。

 資本家や投資家にとって、このような個性的な労働者は資本の価値を自らの利益のために利用しようとする、油断できない存在です。彼らは、資本家にとっては扱いにくい「やっかいな」存在とも言えます。

 米国の企業では、膨大な報酬を要求する強欲な経営者たちの問題が顕著になっています。しかし、「極端に悪くなる」ことを推奨するわけではありません。適度な範囲で資本家の隙をつく行動は、必ずしも悪いことだとは言えないのです。

 経済の仕組みは、資本家であろうと労働者であろうと、工夫を凝らさない人々が劣るように設計されています。

 息子よ。君は、どれくらい「悪い奴」になって世渡りしようとするのだろうか。ちょっと楽しみです。

時間の値段を意識する

 私たちは、自分自身の時間、そして相手の時間に経済価値があると意識することが重要です。例えば、1日8時間働き、年収が1千万円なら時給は5,000円、2千万円なら時給は10,000円となります。実際に使える時間の価値はもっと高いでしょう。

 その時間と自分の価値を天秤にかけながら、自己投資をしていかなければなりません。学問でも仕事でも、2年間集中的に努力すると「素人とはちがうレベル」程度に達します。この段階で、その分野が自分に向いているかを判断するといいでしょう。2年やってだめなら、その分野は向いていません。

 30代になると、能力や実績による個人差が顕著になります。ほとんどの場合、人材としての価値は35歳頃には定まります。出世による差はその後も生じるかもしれませんが、人材としての評価はこの時点でほぼ確立されています。ですから、35歳までに自身の人材価値を高めることに意識を集中することが望ましいです。

 人生は、一つの組織や仕事に依存するには長過ぎます。約45歳から、セカンドキャリアに向けた準備が必要になります。準備を後回しにすると、選択肢が限られ、可能性の範囲も狭まってしまいます。

 この準備には、仕事で必要とされる「スキル」と、自分のサービスを求める「顧客」が必要です。どちらも時間をかけて構築する必要がありますから、準備は早めに始めるべきです。

「自分の嬉しいこと」を言語化せよ

 幸福は、人生全体を振り返って評価することではなく、日々の瞬間に感じるものです。人生を通算で採点し、「振り返ってみて幸せだった」と考えるのには前向きな意義はあまりありません。これは「サンクコスト」に過ぎないからです。

 自分にとって幸せを感じる瞬間は何か、その気づきを言語化すると良いでしょう。

 父は自らを挑戦し、新しい「良いこと」を発見し、それを他人に伝えて感心されたときに幸せを感じることに気づきました。この感覚をキャッチフレーズにすると次のようになります。

 「私のモットーは、正しくて、できれば面白いことを、たくさんの人に伝えることです。」

 息子よ、君も自分が喜びを感じる瞬間を言語化してみてください。上手く表現できれば、心がずっと軽くなります。

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